2024年04月20日( 土 )

ゲーム界の老舗は復活できるのか?(前)~任天堂(株)

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任天堂(株)

 日本を代表するゲームメーカー任天堂(株)。2009年3月期に1兆8,386億円の売上高を達成したが、その後は7期連続で減収。昨年スマートフォン向けのアプリ「ポケモンGO」がヒットするも、本業であるビデオゲーム事業は不振が続く。危機を囁かれているなか、3月3日に新型ゲーム機「Nintendo Switch」を発売。今後の動きに注目が集まる。

老舗玩具メーカーから 世界的ゲームメーカーへ

 任天堂(株)の歴史は、1889年に山内房治郎が花札の製造を開始したことに始まる。1947年に(株)丸福として設立、63年に現商号に変更した。もともとは主にトランプや花札などの製造、販売を行う玩具メーカーだったが、80年に発売した携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」と83年の「ファミリーコンピュータ」の世界的大ヒットにより、ゲームメーカーとしての道を歩むことになる。

 続く89年の「ゲームボーイ」、90年の「スーパーファミコン」もヒットし、家庭用ゲーム機市場のトップとして君臨していたが、94年に発売されたソニー・コンピュータエンタテインメント(現・(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE))の「プレイステーション」に市場トップの座を明け渡すことになる。

 2002年、当時任天堂の社長だった山内溥氏は、技術者だった岩田聡氏を社長に大抜擢。岩田氏は「ゲーム人口の拡大」を基本戦略とし、最先端の機能を充実させたプレイステーションに対し、あくまで玩具として幅広く楽しめるゲーム機を開発。04年、2つの画面とタッチパネルが特徴的な「ニンテンドーDS」、06年には、シンプルな操作と家族みんなで楽しむことをコンセプトとした「Wii」を発売。どちらも世界で1億台以上を販売する大ヒットを記録。09年には過去最高となる1兆8,386億円の売上高を計上した。

市場規模から見る任天堂の現状

 しかし、09年を境に同社の売上高は徐々に減少。これは、11年に発売されたニンテンドーDSの後継機「ニンテンドー3DS」は市場を形成できたものの、12年に発売された「Wii U」の不発によるところが大きい。「Wii U」の不振には「ソフトメーカーにとっては開発がしにくいゲーム機で任天堂以外から有力なソフトが供給されなかった」、「Wiiが売れすぎたため引き継いだ機能が多く、既存ユーザーから見てゲーム機自体に目新しさがなかった」など、さまざまな要因がある。しかし、もっとも大きな理由は、「ゲーム人口の拡大」に成功した結果、皮肉なことに「スマートフォンで気軽に遊べる」ゲームアプリに、一般的なゲームユーザーが流れていってしまったことにある。

 7期連続で減収が続き、16年3月期の売上高は5,044億円とピーク時である09年3月期の3割以下となっている。もっとも、同社の財務内容は非常に強固だ。16年3月期の純資産は1兆1,609億円で、自己資本率は89.5%。12年3月期に432億円、14年3月期に232億円の最終赤字を出しているものの、財務上はびくともしなかった。数年赤字が続いたところで屋台骨が揺らぐことはない。

 ではなぜ、任天堂は危機といわれるのか。そこには家庭用ゲーム機業界の市場争いの構造が関係している。まず、新しいゲーム機は一定数を販売して市場を形成することが命題となる。そして市場にゲームソフトを投入することで売上を上げていく。任天堂やSIEなど、ゲーム機を販売しているメーカーの場合、自社でソフトを開発して販売する以外にも、ゲームソフトを開発・販売するサードパーティ(ソフトメーカー)からのロイヤリティ収入もある。とにもかくにも市場を拡大しなければ、売上は上がらないのである。

 しかも、新しいゲーム機の発売当初は普及を最優先とするため、ゲーム機本体は逆ザヤ(製造価格よりも販売価格が安い状態)で発売することがある。最初は損をしても、普及が進めば大量生産によって製造コストは下がり、市場さえ形成されてしまえば多くのサードパーティがソフトを供給し、ゲーム機本体の赤字を払拭できるからだ。任天堂の過去のゲーム機は逆ザヤで販売していなかったため、プレイステーションに王座を明け渡していた時代でも赤字にはならなかった。しかし、ニンテンドー3DSとWii Uは逆ザヤで販売されていたうえに、当初は普及も進まなかった。それがそのまま12年以降の急激な減収につながっている。

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 家庭用ゲーム機の市場規模を表した【図】を見てもらいたい。ゲーム大国といわれる日本だが、世界市場のなかで占める割合は10分の1以下しかない。また、日本では現在ニンテンドー3DSがもっとも高いシェアを獲得しているが、世界的に見るとそもそも携帯型ゲーム機の市場はとても小さいことがわかる。任天堂は日本で根強い人気をキープしてはいるが、実は世界のゲーム市場全体で見ると1人負け状態なのである。ここまで差がつくと、いくら任天堂が質の高いゲームソフトを開発しても逆転は難しい。

 財務的に強固とはいえ、この状態が何年も続いてはさすがの任天堂もピンチとなる。だが、ゲーム機市場には、数年に一度世代交代が行われるという特徴がある。ゲーム機もコンピューターである以上、何年も経つと性能や機能面で見劣りし始め、ユーザーも離れ始める。ゲームメーカーはどんなに大きな市場を形成していても、数年経つと後継機を開発し、新たな市場を一から作らなければならないという宿命を持つ。任天堂はWiiからWii Uへの市場の移行に失敗した。しかし、Wii Uの失敗を踏まえ、新しいゲーム機を投入するタイミングこそ、復活を狙うチャンスでもあるのだ。

(つづく)
【犬童 範亮】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:君島 達己
所在地:京都市南区上鳥羽鉾立町11-1
設 立:1947年11月
資本金:100億6,540万円
売上高:(16/3連結)5,044億5,900万円

 

(後)

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