2024年04月20日( 土 )

危機にあるアパレル、ワールドをV字回復させた再生請負人の手法(後)

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赤字を黒字にする財務マジック

 (株)ワールドが2015年4月14日に開催した臨時株主総会で、上山健二氏は創業家以外から初めて社長に就いた。
 上山氏は東京大学経済学部出身、(株)住友銀行(現・(株)三井住友銀行)に入行。30歳のとき、中古車買い取りの(株)ジャック(現・(株)カーチスホールディングス)のオーナーに誘われて、ジャックの副社長に転職したのが再生請負人人生の始まり。ジャック社長、(株)長崎屋社長、(株)GABA社長、(株)ぐるなび副社長として企業を再生させてきた。
 その再生手腕を見込まれて、13年12月にワールドに常務執行役員として入社。そして15年に、赤字経営に瀕しているワールドの社長に就いた。

 最初に手をつけたのが、大規模リストラだった。1年以内に、全体の1割強に相当する10~15ブランドの廃止、全店舗は15%に当たる400~500店舗の閉鎖、そして人員削減だ。大規模リストラは、再生の常套手段である。
 再生請負人、上山氏の企業再建のノウハウは、他のプロ経営者と手法が異なる。得意技は、財務諸表をピカピカにすることにある。人の意表を突くサプライズを次々と連発した。
 仰天したのは、決算説明会を開き、赤字決算のはずが黒字決算だと発表したこと。15年3月期の最終利益は45億円の黒字。さらに14年3月期に遡って、16億円の最終赤字を20億円の黒字とした。

 赤字を黒字に換えるマジックは、会計基準を変更したからである。15年3月期決算から日本会計基準を国際会計基準(IFRS)の適用に変えた。14年3月期に遡ってIFRSを適用すると最終赤字は20億円の黒字になり、15年3月期は45億円の黒字となった。日本会計基準のままであれば、40億円ののれんの償却で、赤字転落の瀬戸際に立たされていた。

 ワールドは05年、上場廃止になった未上場企業だ。IFRSを適用する必要はまったくない。IFRSに変更した理由は、ただ1つ。黒字決算にするためである。数多くの企業再生に携わってきた百戦錬磨のプロ経営者である上山氏の得意技は、財務諸表を活用すること。再建の達成度合いが、誰の目にもはっきりわかるのは数字だからである。並みの経営者では思いつかない発想だ。

 上山氏は社長就任直後から「以前のような光り輝く損益決算書を2~3年で実現する」と公言してきた。その最初の目標として、17年3月期の営業利益は15年3月期の約2倍にあたる100億円以上を達成することを掲げた。ふたを開けてみると、17年3月期の営業利益は144億円。ものの見事に達成した。

 次なる目標は、過去最高の営業利益である07年3月期の213億円(日本会計基準)の達成。衣料品の通販サイトの強化や、ホテルなどの内装設計を受託する新規事業で、増益を狙う。
 百貨店と二人三脚できたアパレルは危機にある。アパレル再生請負人、上山健二氏の腕の見せどころだ。

(了)
【森村 和男】

 
(前)

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