2024年04月25日( 木 )

ゼンショーHD、一難去ってまた一難 買収した総菜店でO157感染(後)

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ブラック企業の非難を浴びた深夜の1人勤務「ワンオペ」

 世にいう「鍋の乱」が起きた。鍋の乱とは、14年2月からすき家が提供を始めた「牛すき鍋定食」に端を発する、アルバイトの大量退社、店舗の大量閉店騒動をいう。牛丼等のメニュー比べて、仕込みに時間がかかる鍋物を投入したことから、1人でやるのはムリと、アルバイトが大量欠勤して100店以上が一時休業に追い込まれた。

 槍玉に挙がったのは、深夜の1人勤務体制、ワンオペレーションいわゆる「ワンオペ」。外食チェーンの店舗運営では、調理と接客の最低2人が要るとされている。だが、すき家は違う。深夜シフトの午後10時頃から翌朝9時頃まで郊外店ではワンオペ。たった1人で、準備から注文、調理、レジ、清掃もすべて行わなければならない。ワンオペは過重労働を強いるもので、すき家はブラック企業と非難された。

 ヒトの生産性をいかにして極限まで高めるかの追求から編み出されたのが、深夜のワンオペだった。全店に監視カメラが設置され、監視役の社員が24時間、クルーの動きをモニターした。ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いた超管理社会そのものだった。
 ワンオペは防犯上、問題があった。ワンオペ店を狙った強盗が多発した。警察庁がゼンショーに防犯強化を要請する異例な事態となった。

 「鍋の乱」がワンオペにトドメを刺した。14年10月、すき家の全国約2,000店のうち、ワンオペをすぐに解消できない約1,200店で深夜営業をいったん休止。その後、バイトの増員で深夜営業を順次再開するが、ブラック企業批判がたたり、バイトの採用難で再開は遅々として進まなかった。
 最大の強みである深夜営業の中止で、ゼンショーは15年3月期に上場来初の111億円の最終赤字に陥り、体制の立て直しに取り組んだ。小川氏は守りに徹した。すき家の労働環境改善を優先し、アルバイトの採用数を拡大した。
 その結果、17年3月期連結決算は純利益が前期比2.1倍の84億円と過去最高となった。2年で再建を果した。この間、体制の立て直しに専念して、買収を封印してきた。再建を果したことから、M&Aを再開。フジタコーポレーションを買収した。

 小川氏の凄さは「食の安全」をとことん追求するところに表われている。中央分析センターには1台数千万円もする高価な分析機器が並び、すべての食材がそこで徹底的に検査される。野菜を仕入れるときには、その畑ばかりか、近隣の畑や、近くを流れている川、さらに、その川の源流まで調べる。
 「食の安全」は、小川氏が経営で守るべき生命線であった。ところが、買収した総菜店で、O157に感染した女児が死去した。事業家人生の最大の痛恨事となった。

(了)
【森村 和男】

 
(前)

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