2024年04月20日( 土 )

中小企業は日本経済社会のエンジンである!(1)

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明星大学経済学部教授・一橋大学名誉教授 関 満博 氏

 安藤久佳中小企業庁長官は、2018年の年頭所感で「今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定となっている」と語った。企業数で99.7%、従業員数で70.1%である中小企業は日本経済社会のエンジンである。その行方はどうなってしまうのか。
 今、1冊の本『日本の中小企業‐少子高齢化時代の起業・経営・承継』(中公新書)が話題になっている。著者である関満博明星大学経済学部教授・一橋大学名誉教授に聞いた。関先生は、1973年以来約45年間、製造業を中心に中小企業の現場を歩き、交流を重ねてきた。その活動範囲は、日本全国から中国・東アジア全域の地域産業や中小企業におよぶ。訪問した中小企業数は、国内で8,000社、海外でも日系企業やローカル企業などを合わせて2,000社は下らない。

考え、行動していただくことが重要となる

 ――近刊『日本の中小企業 少子高齢化時代の起業・経営・承継』が、団塊世代の経営者の大量引退時期が迫り、廃業か承継かが話題になる中で、大変注目されています。先生が本書をお書きになった動機から教えていただけますか。

明星大学経済学部教授・一橋大学名誉教授 関 満博 氏

 関満博氏(以下、関) この仕事を45年やってきましたが、大学の方は3月で定年を迎えます。私の仕事は大きく分けて「研究」と「啓蒙」の2つです。自分の研究に関する卒論みたいなものは、昨年2冊(いずれも500頁から700頁におよぶ大作)を出版しました。今年は1冊、来年も2冊で計5冊出版する予定です。研究書の方は、どちらかといえば、多くの方に読んでいただくというよりは、100年を超えて色褪せないような価値が重要となります。
 一方で、啓蒙書の方はできるだけ多くの皆さまに読んでいただき、考え、行動していただくことが重要です。本書はこちらに該当します。

 私はここ20年にわたって、少子高齢化時代の「中小企業の事業承継」に注目してきました。国は新規創業を推進していますが、ほとんど進んでいません。一方で、日本の製造事業所は1986年の約874万人をピークとして、2016年には約半数の454万人に減少しています。とくに一国の基幹的な部分を占めるモノづくり系の機械金属工業部門は、この10数年退出ばかりが続き起業は皆無に近いのです。

 その理由は、相対的に豊かになり、安定志向が高まり、リスクをともなう起業への関心が全体的に低下し、「ガリガリ頑張る人がいなくなった」とか、たとえば、金型企業の場合、昔は中古のフライス盤1台という「初期投資が50万円ぐらいで済んだ」ものが、工作機械群の性能が飛躍的に高まり、「初期投資に1億円以上必要になった」とか、色々あると思います。しかし、創業できていない事実に変わりはありません。そのような状況下、現在ある企業の事業承継が叶わなければ、日本の中小企業は減る一方で危機的な状況になると思えたからです。

汗が成功のバロメーターであった時代

 承継が叶わない最大の理由は後継者がいないことです。そこで、後継者さえいれば、減るのはとどまるのではないかと考え、私は自分が全国で主宰している経営者や後継者を対象とする塾(全国約22カ所で実施、塾生は延べ3,000人を超える)を通してそのテーマに具体的に取り組んできました。

 実際にやって見ると、非常に良い感じで、塾生の多くが承継に前向きになってきました。しかし、承継できたとしても、今は社会が複雑で、「汗が成功のバロメーターであった」父親の時代と違い、成功するための条件が複雑になっています。また、当たり前のことですが、その事業が儲からなければ誰も承継しません。父親が儲かる仕組みを作って、息子や娘などに承継させるのか、承継する息子や娘などが、自らその事業に儲かる可能性を見出すかのいずれかでなければなりません。

時代のうねりのほうが強く対応できない

 ――社会が複雑になっていることは理解できます。しかし、こうなる前に何か政府は対策を講じることができなかったのでしょうか。先生はこうなることをかなり前から予測できていたという話も聞きます。

 関 私は、今から約25年前の1993年に『フルセット型産業構造を超えて―東アジア新時代のなかの日本産業』(中公新書)を出しました。当時、この本は大変評判になり、ベストセラーになって、権威あるエコノミスト賞を獲得、その後英文、中文にも翻訳されました。この本をお読みになった方から、時々「先生は当時すでに、今の社会が見えていたのですか?」というお問い合わせを受けるほど、現在起こっていることが書かれています。
 政府が何もしてこなかったわけではありません。私の意見・論調は毎年の白書にもかなり反映されており、政府はその方向にかじを切って進んできています。十分に満足できるかどうかは別にして、中小企業に対して政策・指導を行ってきました。しかし、それ以上に、あまりにも時代のうねりが強くて、担い手である中小企業が対応できなかったのです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
関 満博(せき・みつひろ)
1948年富山県生まれ。成城大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。東京都商工指導所、専修大学助教授、一橋大学教授などを経て、明星大学経済学部教授(2018年3月に退官)・一橋大学名誉教授。経済学博士。
著書は、『中山間地域の「買い物弱者」を支える』(新評論、2015年)、『東日本大震災と地域産業復興』Ⅰ~Ⅴ(新評論)、『「地方創生」時代の中小都市の挑戦』(新評論、2017年)、『北海道/地域産業と中小企業の未来』(新評論、2017年)、『日本の中小企業 少子高齢化時代の起業・経営・承継』(中公新書、2017年)など130冊におよぶ。授賞歴として第9回(1984年)中小企業研究奨励賞特賞(『地域経済と地場産業』)、第34回(1994年)エコノミスト賞(『フルセット型産業構造を超えて』)、第19回(1997年)サントリー学芸賞(『空洞化を超えて』)など がある。

 
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