2024年04月23日( 火 )

後手後手の無責任体質で最悪の結果招く ハリルホジッチ監督解任か

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 4月9日午後4時から、日本サッカー協会はバヒド・ハリルホジッチ日本代表監督の「去就」について緊急記者会見を開くと表明した。「去就についての緊急会見」といえば、当然解任ということになるのが常識的なところ。すでに「田嶋幸三・日本サッカー協会会長が監督本人に解任を伝えた」という旨の報道も見受けられる。

 まさに愚の骨頂とはこのことだ。今監督の首をすげ替える意義がどこにあるのか。
 そしてW杯直前のこのタイミングで監督交代となれば当然任命権者の責任が問われることになるが、協会幹部にその覚悟はあるのだろうか。決断を先送りにする日本的な体質が、最悪のかたちで出たといえるだろう。

 ここ最近の親善試合ではブラジル、ベルギーなどのW杯出場を決めた強豪国、さらにマリ、ウクライナなどW杯を逃した国の代表チームからも勝ち星は挙げられていない状況。解任の理由とするならばこのあたりだろう。
 しかし、親善試合とはそもそも練習試合だ。「本番」であるW杯予選では、勝ち点を計算しながら首位で勝ち抜けを達成。最大のライバルと見られていたオーストラリアに対しては相手の戦術を読み切って完勝を遂げるなど、ハリルホジッチ監督の采配は実に冴えていた。

 そもそも、ハリルホジッチ監督は典型的な「本番に強い」タイプの監督。前回のブラジルW杯ではアルジェリアを率い、試合ごとに先発を入れ替える大胆な選手起用と戦術で、決して強国とはいえないアルジェリアを決勝トーナメントに導いた。

 W杯予選終了後の親善試合とE-1サッカー選手権(中国、韓国、北朝鮮と日本が参加する国際大会。いわゆるA代表試合ではなく、日本代表にはクラブ所属の選手を招集する強制力はない)では招集するメンバーが毎回異なることからも、ハリルホジッチ監督がさまざまなテストを行っていたことは明白だ。そのテスト試合で結果が出てないから切る、というのは明らかにおかしい。どんな試合でも勝て、というなら、サッカー協会は最初から勝てる相手とだけ試合を組めばいいという理屈になる。

 会見では田嶋会長や西野朗技術部長(元ガンバ大阪監督)らがあれこれと理由を述べるのだろうが、聞きたいことはただ1つ。「W杯まで後2カ月、公式戦は後3試合しかないなかで監督を替えるという大きなギャンブルに出るメリットがどこにあるのか」ということだ。後継監督にはその西野氏か、日本代表コーチの手倉森誠氏(ベガルタ仙台監督、リオオリンピック代表チーム監督などを歴任)ということになるのだろうが、W杯の舞台において彼らにハリルホジッチ監督以上の手腕が期待するのは酷。とくに手倉森氏は50歳と若いものの指導者経験が豊富で、指導者としての将来を嘱望されていただけにこのタイミングで火中の栗を押しつけられるのはあんまりだ。

 そして、ネットには「できれば本当であってほしくない」というたぐいの観測も流れている。「スポンサーの意を受けて、特定の人気選手の代表選出や出場の確約を求められ、それを断ったハリルホジッチ監督が解任された」というもの。以前からこの種のうわさは絶えないが、もし本当だとすればとても看過できるものではない。たしかに最近ハリルホジッチ監督が招集する選手は、Jリーグを日常的に見ているファンでも驚くような選手だったり、海外で活躍していても知名度が低い選手だったりすることも多い。上記のようにハリルホジッチ監督はテストを繰り返しているのだから当然といえば当然なのだが、「親善試合であっても商売だ」という感覚のスポンサー企業からすれば、「誰も知らない選手を呼んで、負ける日本代表」という状態は我慢できないことなのかもしれない。

 しかしここで、声を大にして言いたい。サッカーにたずさわる協会関係者、スポンサー企業、マスコミ、ファンの皆さま、2006年の悲劇を忘れたのか、と。
 06年ドイツW杯は、ジーコというサッカーファン以外にも知名度の高い監督を迎え、「黄金の中盤」とマスコミがもてはやす中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一をそろえたチームはW杯前の親善試合でも快勝して期待を集めたが、本選では2敗1引き分けと惨敗した。Jリーグが発足した1993年から続いた日本のサッカーブームはこの結果を受けて一挙に冷え込み、多くのサッカー雑誌が廃刊に追い込まれた。
 残念ながら、今の日本のサッカービジネスの浮沈は「代表がW杯でどれだけ活躍できるかどうか」にすべてがかかっている。どれだけ知名度のある選手や監督がいようと、事前の試合が盛り上がろうと、4年に1度のW杯に出場し、勝たねばならない。すべてはそこから逆算していかなければならない。
 だからこそ、ハビエル・アギーレ前監督を不祥事で解任した後に、「本番に強い」ハリルホジッチ監督を招聘したのだと思っていたが、協会の思惑はそうではなかったようだ。

 「W杯出場」という結果を残した監督の首を理不尽に切る、という暴挙を本当にやってのけるなら、今後海外で有名な監督が日本代表監督に就任することはほとんどなくなるのではないか。今回のサッカー協会の決断は、日本のサッカー界に対して将来にわたる深く大きな傷をつけることになるのは間違いない。

 午後4時の会見が解任会見ではないことを心から祈る。

【深水 央】

 

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