2024年03月29日( 金 )

シシリー島便り・日本人ガイド、神島えり奈氏の現地レポート~シシリーの果物(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 シシリーの人々は、一般的に果物をよく食べる。果物にもよるが、日本に比べて大変安いのがよく食べられる理由だ。オレンジは1kgあたり2ユ-ロ以下、この時期旬のアーティチョークは1kgあたり3ユ-ロほど、島内でも田舎の村などでは、もっと安く手に入れることができる。果物はシシリーの家庭に欠かせないものなのだ。

 シシリーの果物で、最初に思い浮かぶものといえばオレンジではないだろうか。またレモン、柑橘類も有名だ。サボテンの実、ザクロ、そしてアーモンドやピスタチオなどのドライフル-ツも豊富だ。
 シシリー島のなかでもカターニア近郊、シラクーサ県、ラグーサ県などの東部は、土地が肥沃で豊かな果物の生産地で、オレンジの種類がたくさんある。アグリジェント県リベラ市でつくられるオレンジはきれいな橙色で、大変糖度が高く、おいしい。ヨーロッパ最大の活火山エトナ山周辺、カタ-ニア近郊では赤味を帯びたタロッコ、あるいはモーロと呼ばれる種類、さらにサングイネッラと呼ばれる真っ赤な果肉の種類がある。活火山の斜面になり、昼夜の寒暖差とミネラルが豊富な土壌で生まれる赤いオレンジだ。この赤い色素はアントシアニンという成分からなる。アントシアニンはポリフェノールの一種で、強い抗酸化作用があり、美容・健康に効果的だと言われている。

 オレンジがシシリーの歴史に登場するのはアラブ支配の時代だ。皮が1cm近く、実に苦みがあるオレンジは観賞用のために植えられた木だ。黄金色のオレンジの実は街を輝かせ、現在もシシリーのどの街の広場にも必ず観賞用のオレンジの木が生えている。
 ノルマン時代の黄金モザイクにも必ずオレンジの木が描かれている。赤いオレンジはサラダや料理用のソースとしても使われる。シシリー風サラダは、ウイキョウを刻み、赤紫玉ねぎ、アンチョビ、赤いオレンジ、オリーブの実を塩コショウ、オリーブオイルで味付けする。食欲のない時におすすめのサラダだ。

 同じく9世紀にシシリーに入ってきたとされるのが、ピスタチオだ。イタリア国内で有数の生産地はシシリーのなかでもブロンテ市、アグリジェント県、カルタニセッタ県である。ブロンテという村は、エトナ山にある人口2万人足らずの村だ。毎年9月に開かれるブロンテのピスタチオ祭はシシリーの有名なお祭りの1つだ。
 “ORO VERDE”と呼ばれるブロンテのピスタチオは、緑色の金と訳され、大変コクがあり、甘味が口の中に広がり、イタリア政府が支援するDOPに登録されている。DOPとはDenominazione Origine Protettaの頭文字で、日本語で“保護指定原産地表示”と訳すことができる。DOPに登録されると、ヨーロッパお墨付きの食材ということになる。

 日本でピスタチオの木を見たことがある人はそれほど多くないだろう。濃いピンク色の花が咲いた後、実がブドウの房のようにたくさんなる。収穫は9月に行われ、殻をとった後、太陽の下で乾燥させる。乾燥させるためにオーブンなどの機械はいっさい使わない。ピスタチオにとって湿気は大敵である。1つ1つ丁寧な作業をすることがDOPの格にもつながる。ピスタチオの収穫量が世界第1位のイランや、それに次ぐアメリカ産と比べてブロンテのピスタチオの価格が3割ほど高いのは“手間ひま”をかけたこだわりのあかしだ。

 ピスタチオを使ったいくつかのレシピを紹介しよう。パスタに和えるピスタチオソースは、ピスタチオの実、パルミジャーノチーズ、ニンニク、バジルの葉、レモン、エキストラバージンオリーブオイルをミキサーにかけ、アルデンテのパスタにしっかり混ぜあわせる。すると、口の中にシシリーの香りが広がり、シンプルながらおいしいパスタが出来上がる。魚や肉のうえにトッピングすると、触感、味のアクセントになる。刻んだピスタチオの実をフライパンで炒って白身魚のうえにのせオーブンで焼くととてもおいしい。またピスタチオのジェラートもシシリーにきたら一度は試していただきたい一品だ。

 サボテンはFICO D’INDIAと呼ばれる。起源は中南米でコロンブスの新大陸発見後、地中海沿岸の各地域に入ってきた。大きなウチワのような丸い葉のかたちから、ウチワサボテンという種類に分類される。暑さ寒さに耐え、生命力が強く、丈夫なためシシリーでも栽培化がどんどんと進んでいる。
 16世紀ごろにシシリーに上陸したサボテンは、5月ごろに濃いピンクや黄色の花を咲かす。実が膨らみ、食べごろになるのは9月から11月にかけてだ。外側の皮にはびっしりと、トゲが生えている為、軍手をして収穫する。季節によってトゲなしのサボテンの実もつくられている。
 その昔、何も知らないドイツ人が丸ごと口に入れ、口の中がトゲだらけになり、救急車で運ばれたという話もある。サボテンの実の中には、びっしりと種が入っている。大きさはブドウの種くらいだ。現地の人はいちいち種を1つ1つ出して食べるようなことはしない。実といっしょに飲み込んでしまうのだ。私も最初は気になって出していたが、慣れると意外と飲み込めるものだ。ミネラル豊富で水々しい、甘くて胃腸の調子を整える効果もあるという。ビタミンCのほかミネラルのなかでもリンを多く含んでいる。

 島で有名な生産地は「SAN CONO」という、ちょうど島の真ん中あたりに位置する街だ。サボテンリキュール、サボテンジュース、サボテングミ、サボテンジャム、サボテンジェラートなど地域活性化にも貢献している。
 360度サボテン畑の光景はまさにメキシコに空間移動したかのような錯覚に陥る。シシリーのシンボルのようになったサボテンの実は、ソープ入れやピアスなどのアクセサリー類など商品もバラエティーに富んでいる。色は紫、橙、黄緑と色とりどりで美しい。
 サボテンのなかで一番甘いと言われているのは、紫色で現地では“いちご色”と表現されるサボテンだ。収穫量が少ないせいか、場合によっては値段が若干高くなっていることもある。夏終わりのまだ暑さの残る時期にはサラダなどで食べられている。

(つづく)

<プロフィール>
神島 えり奈(かみしま・えりな)
2000年上智大学外国語学部ポルトガル語学科を卒業後、東京の旅行会社に就職。約2年半勤めたのち同社を退職、単身イタリアへ。2003年7月、シシリー島パレルモの旅行会社に就職、現在に至る。

 
(後)

関連キーワード

関連記事