2024年05月08日( 水 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(12)

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欧米諸国は中国のことをよく知らない

 次は中国の政治、経済でございます。これは先ほど概略は申し上げました。党の綱領の中に習近平主席の思想が毛沢東と鄧小平と並んで3人目の思想として入ったというのですが、その「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」というのが具体的に何を示すのかというのが、なかなかわかりづらい。それがどのように運用されるかということを含め、これは難しい話だろうと思います。われわれの世代が若いころは、もう古い世代ですが、中国の新しい歴史が大変注目を集めていた時で、中国の革命がどのように進展したのか、また、その革命の実態はどういうものかという本も多く出まして、われわれはこれらについて勉強をしました。毛沢東の「実践論」とか「矛盾論」とか、「文芸講話」のような本まで読んだものです。念のため、本棚をチェックしましたら、「文芸講話」は1963年5月16日に読了しています。ああいった本は非常に明確にポリシーやフィロソフィーが書いているのですが、今回の習思想が具体的にどんなことを言っているのか、実際の経済政策にどう運営されるのかということがよく分からないというのが正直なところではないでしょうか。

 それから中国については先ほど申し上げましたように、欧米の対応の変化ということが大事な話だろうと思います。経済についても、非常に大きなマーケットであるということ、それから一部、たとえば電気自動車の開拓その他にものすごく国の補助金が入る、あるいは国の政策の傾斜があるということについて警戒する論調が強くなっています。いずれにしても、この中国がどういう政策を採るかが大きな問題であります。

 もう1つ、気が付きましたのは、欧米諸国はやはり中国のことをよく知らないらしいということです。日本の場合は、世代にもよるでしょうが、中国の歴史について比較的よく知っていると思います。昔から王朝の歴史だとか、文化だとか、またその間には、黄巾の賊が出てきたり、赤眉の乱があったりとか。それから、われわれの世代は中国が社会主義に移る時にどういう政策を採ったのか、「長征」だとか、「国共合作」だとか、よく知っているわけです。しかし、米国や欧州の人たちはよく知らないわけです。

 少し脱線しますと、1990年代後半に、シャック・ウェルチというGEの社長が5、6人の自分の部下を引き連れて定期的に日本に来ていまして、日本側と意見交換をしていました。彼は、自社の今後の経営方針を含めて説明し、われわれにコメントを求めたり、経済情勢について意見交換をしました。日本側として招かれたのは大蔵省、通産省から1名ずつ、それにメガバンクの実力者OBや大手メーカーの社長など10名ほどでした。私が国際金融局次長および関税局長の時代だったと思いますが、大蔵省からは私が、通産省からは通商産業審議官も務められた、これも福岡出身の中川勝弘さんが招かれていました。その時にウェルチがわれわれに聞いてきたのが「中国をどう考えたらいいのか」ということでした。私が彼に言ったのは、「Don,t judge on what they say、 but do judge on what they do」、つまり、「彼らが何を言っているかということで判断しないで、彼らが何を行っているかということで判断すべきだ」ということを言いました。ウェルチは大変喜んでその後、わざわざ手紙をくれまして、「あなたのこの言葉が気に入った」と書いていました。ただし、あとでわかったのですが、ウェルチはいろいろな人に対して「気に入った」と手紙を送っていたようでして…(笑)。

 いずれにしましても、もう少しわれわれとしましては中国の近隣にこれだけ長い間住んでいまして、歴史も共有し、いろいろな面で切磋琢磨してきたわけですから、そういうことを踏まえて、中国についての見解を示すことが、われわれの貢献の1つではないかということを最近思うようになりました。ちなみに、私は2013年に「日米金融交渉の真実」という本を出版しました。その出版記念パーティーを福岡と東京で開いてもらったのですが、東京でのパーティーで財務官OBから「この本は中国が参考にするかもしれない」と言われました。実はその後、中国語の翻訳本が出ておりまして、その本は「日美金融战的真相」との題ですが、これらを通じて米国がどういう国かということを勉強している面もあるのではないかと思います。少し脱線をいたしましたが、中国の政治、経済はそういうことであります。

(つづく)

 
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