2024年05月14日( 火 )

【トップインタビュー】東グロ上場・売れるネット広告社 通販から他業界へマーケット拡大

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(株)売れるネット広告社
代表取締役社長CEO 加藤 公一 レオ 氏

(株)売れるネット広告社 代表取締役社長CEO 加藤 公一 レオ 氏

 D2C(ネット通販)事業者向けのネット広告支援を専門に行い、通販業界で名を馳せる(株)売れるネット広告社が10月23日、東証グロース市場に上場をはたした。代表取締役社長CEOの加藤公一レオ氏に上場の目的や今後の成長戦略について聞いた。

事実ベースの売れる仕組み

 ──貴社の成り立ちや企業理念についてお聞かせください。

 加藤公一レオ氏(以下、加藤) 当社は、D2C(ネット通販)向けのネット広告に特化したクラウドサービス会社として2010年に福岡に設立しました。現在は、福岡と東京2拠点を軸に事業を行っています。おそらく世界で一番真っ赤なオフィスだと思います(笑)。

 「売れるネット広告社」という社名は珍しいと思いますが、ネット広告業界には「デジタル」や「サイバー」など横文字の社名が多いので、日本語名にしたほうが単純に目立つだろうという考えと、検索したときに「売れる」や「売り上げ」「広告」といった関連したキーワードにヒットする社名を意識しました。

 当社の企業理念は「“最強の売れるノウハウ®”を用いて 関わるすべての企業を100%成功に導くことで 世界中にたくさんのドラマを創る」―― “最強の売れるノウハウ®”とは、当社が2,600回以上繰り返してきた【A/Bテスト】から導き出した事実ベースの成功法則のことです。過去に試行回数日本一として「UA-JAPAN RECORDS(UA日本記録)」にも認定されましたが、この徹底的な【A/Bテスト】によってクライアントのネット広告の費用対効果の改善を行ってきました。

 ──「ネット通販」における「ネット広告」とは?

 加藤 世の中にある一般的な広告は、認知やブランドイメージを高めるために打ち出す「イメージ広告」で、予算規模の大きい大企業が得意とする戦略になると思います。そういった雑誌やテレビCMなどでも使われるイメージ広告は、効果を数値化することはできません。

 当社が運用するネット広告は、「ダイレクト広告」というもので、顧客にその場で行動を起こさせることを目的とする──社名の通り「売れるための広告」です。ネット広告の世界では24時間365日、良くも悪くも全部の効果測定がされるので、この世界では数字を残したものが絶対的な王様なのです。私たちには実力勝負の世界でやってきたという強みがあります。ネット通販においては、広告投資を「ギャンブル」にしてはいけない、「確実性・再現性」が最も重要だと考えています。

 ──【A/Bテスト】の検証方法を具体的に。

 加藤 たとえば、バナー広告に10万回クリックがあったとき、デザインの違う4つのランディングページ(LP)を2万5,000回ずつ均等に表示させる。そして、どのLPが最も申し込み率が高いかを検証する──これが【A/Bテスト】です。どんなに映えていても、かっこよくても関係なくて、何が最も売れたかを評価とし、1位のものだけを残してあとは捨てていく。これをずっと繰り返していくというのが、【A/Bテスト】の概念です。私たちはこれを日本で1番やってきた会社です。

ビジネスモデルは2軸のサブスク

 ──事業内容について教えてください。

 加藤 「ネット通販」×「ネット広告」に関したデジタルマーケティング事業を柱とした年間契約ストック型の2つのサービスを提供しています。

 1つは、クラウドサービス『売れるD2Cつくーる』でネット広告・LPに特化したシステムです。前述した【A/Bテスト】を基にした “最強の売れるノウハウ®”の活用を可能にし、受注システムやCMS、クリエイティブをつくるシステムなどLPを最適化するための主要な機能を搭載しています。ネット通販を開設する商品ページにはモール型やショップのカート型システムがありますが、LPに特化したシステムは当社が初めて開発したものです。広告制作や入稿を人の手でアナログ的に行うと、大変な手間や時間がかかるものですが、『売れるD2Cつくーる』は、通販顧客が商品名や商品画像など10項目を登録するだけでLPのベースのデザインとシステムをたった3分間で仕上げることが可能です。

 もう1つは、マーケティング支援サービス『最強の売れるメディアプラットフォーム』という「通販会社」と「媒体社」をマッチングさせる成果報酬型広告プラットフォームです。通販会社が349社(23年7月時点)の媒体社に広告配信が可能で、自社の広告予算に合わせた設計を行うことができます。一方、媒体社は選んだ通販会社の広告LPを自動で入稿(ダウンロード)し、配信を行います。そして、消費者から注文が入って初めて成果報酬として掲載料が発生する流れです。イメージ広告は通販会社が莫大な投資を行い、売上ゼロでも仕方がないものでしたが、当社はそれを媒体社の方にもリスクを負ってもらうような交渉を10年以上行ってきたことで、成功報酬型のマッチングサービスとして成立させました。

 この2つのビジネスモデルの大きな特徴は、広告代理店を経由せずに両者が直接取引を行えることです。私の「労働集約型をなるべく自動化させたい」という思いが実現できました。また、これにより【A/Bテスト】の結果を集計・蓄積し再現性のある「事実ベース」の“売れる仕組み”が継続的にローテーションしていきます。当社のビジネスモデルは、広告業界の常識だったオリジナリティとは正反対の発想ですが、クライアントの費用対効果を上げることを重視した標準化というのが大きなポイントですね。

安定経営による地盤づくり

 ──業績推移は、きれいな右肩上がりですね。

 加藤 創業のころから業界人として名前を知ってもらっていたこともあり、初年度から黒字で順調に業績を伸ばすことができました。安定的に成長を続けてこられたのは、大事にしている2つのこだわりといいますか、ブレない戦略がありました。

 1つはバズワードに乗っかったサービスをしない。デジタルマーケティング業界は、どの時代にも「〇〇マーケティング」といった「バズワード(流行)」が存在し、毎年のようにバズワードに乗っかったサービスがどんどん出ては消えていきます。たとえば、SEO・運用型広告・アドアフィ・DXなどその時代のバズワードに乗っかったサービスを提供すれば、業界から一時的に注目されるし、売上が一気に上がるかも知れません。ですが私たちは、この13年間そういったバズワードを使ったサービスは提供してきませんでした。結局、この業界が始まって23年間ずっと続いている言葉は「ネット通販」「ネット広告」の2つだけなのです。ですから、流行りに左右されない統計に基づいた「事実ベース」のサービスを定着させてきました。

 もう1つは、年間契約のストック型ビジネス。『売れるD2Cつくーる』は月14万9,800円で、『最強の売れるメディアプラットフォーム』は平均して月30万円くらいの年間契約です。もちろん更新しないクライアントさんがいらっしゃいますので、一定の目減りはあるかもしれませんが、新規顧客が解約数より増えていれば、毎月の売上も伸びて積み上がっていく構造です。

 定番モデルの需要を着実に増やしてきたことで安定した成長ができ、上場に踏み込めるまでの強固な土台をつくることができました。

業績推移
業績推移

上場に向けた仕掛けの年

 ──唯一赤字決算となった22年7月期(第13期)について。

 加藤 一昨年に福岡と東京のオフィス移転・立ち上げに約3億円を投資し、同時にテレビCMを使った広告訴求にも3,000万円ほど投下しました。上場の申請期に入る前に投資を全部終わらせておきたかったことが理由です。

 また、クライアント平均化戦略を行いました。というのも、当時の売上は大手4社で全体の6割を占めており、特定のクライアントに依存しすぎては上場できないと判断したからです。大手への営業を縮小し、ほかのクライアント百何十社を3カ月に1度訪問し中小の顧客単価を上げる営業の分散化を図りました。その結果、やはり大手のなかで不満をもつクライアントさんが解約に至り、大幅に売上が下がることになりました。
 23年7月期は過去最高の売上高9億5,900万円を計上しました。移転前と比べ家賃は倍増しましたが、投資はすべて止めたことで、営業黒字回復もしました。

 ──どのぐらい前から上場を考えていましたか。

 加藤 考え始めたのは5年ほど前ですね。当社は若い社員が多く、新卒採用で毎年どんどん若手が増えてきているなかで、「彼らが定年するまでは存続していく会社でなければならない」と考え、100年続く会社を目標に置くと、上場が1つの大きなターニングポイントになると思いました。

 また、私が会社員だったころは、東証一部上場の企業で働いていたので上場企業のスケールの大きさは経験しておりました。自分の好きに経営するぞという勢いで会社を起こしてからは、堅実な事業で売上・利益をコツコツ積み上げて業績を上げてきましたが、逆にいうと、飛躍的に10倍くらい上昇するようなスケール感はなかったんですよね。

 今は勝負していけるだけのバックボーンはつくることができたので、100年続く会社にしていくために、資金調達により事業をどんどん拡大していこうと上場を考えました。

売れるシリーズを他業界へ

 ──今後の成長戦略をお聞かせください。

 加藤 事業拡大のためにまず既存路線のなかで強化する部分が3つあります。まずは無料のSNSだけでなく広告出稿によるリード獲得で「新規クライアント数の増加」を図ります。2つ目は、主要サービスの新機能開発などで顧客満足度を高めて「長期継続クライアントの増加」を図ります。3つ目は、メディアプラットフォームの媒体枠拡大などで「クライアント単価の増加」を図ります。

 さらに新規事業の戦略ではM&Aを考えています。新規事業にチャレンジするには、1から立ち上げることよりも、買収していくことがトップラインを引き上げる近道だと思っています。業界としては、保険や人材、不動産、金融など、ネット広告と親和性の強いほかの業界へ進出することでマーケットを拡大していきたいです。各業界の「売れる〇〇つくーる」シリーズを展開するイメージですね。

 また、現在は国内のみの展開ですが、海外で生まれ育った私にとっては、グローバルビジネスはずっと昔からチャレンジしたいと思っていましたので、ベトナムとか台湾とか、故郷であるアメリカかもしれませんけど海外展開も視野に入れています。

 あと、意外に思われるかも知れませんが、オフライン広告も結構興味ある分野です。どういうことかというと、テレビや新聞といったオフラインは統計的には落ちていっているのですが、ただし視点を変えると、寡占市場にあるので、その1割を取るだけでも数百億の売上が見えてくる。やってみたいなって思う事業ですね。

 今後は、安定した経営をベースとしつつも、レバレッジを利かせた収益拡大でチャレンジングな事業展開を行っていきます。そして通販だけでなくほかの業界でも「売れるネット広告社」の認知度を高めていきたいです。

【松本 悠子】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:加藤 公一 レオ
所在地:福岡市早良区百道浜2-3-8
東京オフィス:東京都港区台場2-3-1
設 立:2010年1月
資本金:1億9,837万円
売上高:(23/7)9億5,939万円


<プロフィール>
加藤 公一 レオ
(かとう・こういち・れお)
加藤 公一 レオ1975年ブラジル・サンパウロ生まれ、アメリカ・ロサンゼルス育ち。西南学院大学経済学部卒業後、三菱商事(株)に入社。その後、Havas Worldwide Tokyo、(株)ADKホールディングスにて、一貫してネットビジネスを軸としたダイレクトマーケティングに従事。「やずやベストパートナー賞」受賞。「Webクリエーション・アウォード Web人貢献賞」受賞。「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー ジャパン九州地区」受賞。

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