環境デザインとコミュニティ活動(前)
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九州大学 大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 助教 柴田 建 氏
戸建住宅において防犯という要素はなくてはならないものだが、住宅地の防犯―「タウンセキュリティ」という考え方は、まだあまり浸透していない。このタウンセキュリティについて、建築社会システムを専門とし、2014年11月から福岡県警の「犯罪予防研究アドバイザー」も務める、九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門助教の柴田建氏に話を聞いた。
環境設計による犯罪予防 タウンセキュリティ
――日本では住宅地の防犯という考え方が、まだあまり浸透していないように感じます。
柴田 日本において住宅地の防犯が話題になってきたのは、2000年ごろに大手ハウスメーカーが関西の郊外エリアで住宅地を開発したときに、「タウンセキュリティ」という概念を入れたのが始まりだと思います。
ただし、ここも最初から防犯に配慮しようというコンセプトがあって開発されたものではなく、バブル後につくられた街並みで売れそうになかったところを、いかにコストをかけずに何かやれないかを模索し、試しにセキュリティを強化したところ、思いがけず話題になってヒットした、と聞きました。
このときに、日本でもセキュリティに対する需要があることを、業界としても初めて気づいたかたちです。それまでの日本では、ホームセキュリティという概念はありましたが、街のセキュリティ、つまりタウンセキュリティという概念はありませんでした。一方で欧米には、「CPTED(セプテッド)」という犯罪予防の考え方があります。CPTEDとは「Crime Prevention Through Environmental Design」の頭文字をとったもので、日本語訳にすると「環境設計による犯罪予防」です。つまり、街並みの物理的なレイアウトによって犯罪被害率が変わってくるというような考え方で、欧米ではその研究が進められていました。
そうしたなか、筑波大学の渡和由教授や東京大学の樋野公宏准教授らが「防犯まちづくりデザインガイド」((独)建築研究所)というものをまとめられたのですが、これは欧米―なかでもアメリカの防犯環境設計のアイデアを日本にもってくる場合、どういったかたちで落とし込めるか、というような内容のマニュアルになっています。
ただ日本の場合は、防犯に対しての関心が次第に高まってはきていますが、結局のところは、防犯カメラ頼みになりがちなのが実情です。さらに、アメリカを始め全世界で普及しているのは「ゲーテッド・コミュニティ(Gated community)」といって、街区の周囲を塀などで囲んでゲート(門)を設け、住民以外の敷地内への出入りを制限するやり方です。
ただ、日本の場合は公道上にゲートをつくれないため、住宅地においてこうしたやり方は現実的ではありません。とはいっても、日本のマンションなどは実質的にはゲーテッド・コミュニティに近いのですが。
私は、先ほどの渡さんや樋野さんと一緒に、防犯カメラやゲートではない、日本ならではの住宅地の防犯のあり方を考えてきました。日本の場合は、「閉じて守る」というよりは「開きながら守る」といった、コミュニティの力で守るようなやり方のほうが合っていると感じています。キーワードとしては「開かれた防犯」です。
新旧住宅地の防犯性能の違い
――「犯罪予防研究アドバイザー」で行われた研究の概要をお聞かせください。
柴田 まず、今回の研究にあたっては、福岡県内の中~大規模の計画的につくられた住宅地のなかで、各開発年代のなかで特徴的なところを計15地区選出し、それぞれの06年度から15年度までの10年間の、住宅侵入盗被害率のデータを調査するところから始めました。これは簡単にいえば、そこの住宅地に10年間住んだ場合、泥棒の被害に遭う確率は何%か、というようなものです。
その結果を見てみると、最も低いところで0%、最も高いところで5.0%と、地区によって大きく数値が異なっていることがわかります。
これら15地区を開発年代ごとに見てみると、60年代に開発された2地区がそれぞれ5.0%と3.3%、70年代の1地区が3.2%と、古い住宅地の侵入盗被害率が高い一方で、2000年代に開発された住宅地4地区では0~1.6%と、比較的低い数値になっています。つまり大雑把にいうならば、古い住宅地ほど防犯性能が低く、新しい住宅地ほど防犯性能が高いということです。
――なぜ古い住宅地のほうが、防犯性能が低いのでしょうか。
柴田 これには、いくつかの要因があります。まず1つ目は、住人の高齢化です。概して古い時代に開発された住宅地では、住人の高齢化が進んでいます。そして、もちろん人によるとは思いますが、高齢者の方々の防犯意識はいまだに低く、簡単にいえば住居にカギをかけるという意識が希薄なのです。
実は、戸建住宅における住宅侵入盗の際の侵入経路というのは、ガラス窓を破って入るケースよりも、無施錠の入り口から入るケースのほうが多いというデータがあります。高齢者になればなるほど、昔のままの感覚で庭側の窓や勝手口などを無施錠のまま暮らしており、そこから泥棒の侵入を許してしまっているのです。(つづく)
【坂田 憲治】<プロフィール>
柴田 建(しばた・けん)
1971年生まれ。九州大学大学院人間環境学研究科修了(博士・工学)。専門は建築社会システム。住宅地におけるコミュニティ形成、街並み維持、防犯、エリアマネジメントなどについて、各地でフィールドワークを行うとともに、新規開発および再生のプロジェクトにも参加している。2014年11月より福岡県警の「犯罪予防研究アドバイザー」に。関連記事
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