2024年04月25日( 木 )

多目的ダムとして運用開始、防災や治水などに大きな期待

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五ケ山ダム

計画から約40年、五ケ山ダムがついに完成

五ケ山ダム

 3月11日、福岡県那珂川町五ケ山地区那珂川上流で建設が進められていた多目的ダム「五ケ山ダム」が完成し、現地で竣工式が開催された。式には小川洋福岡県知事を始め、関係自治体の首長や国会議員、県議会議員、町議会議員、元地権者など多くの関係者が出席。このダムに寄せる期待の高さがうかがえた。

 五ケ山ダムは、型式としては「重力式コンクリートダム」となり、ダム堤の高さ102.5m、長さ556mの大きさをもつ。総事業費は約1,050億円。県営ダムとしては3月に完成したみやこ町の伊良原ダムに続いて17カ所目となるもの。ダム湖は佐賀県吉野ケ里町にもまたがり、総貯水量が4,020万m3でヤフオク!ドーム約22杯分の大きさをもつ。日向神ダム(2,790万m3)や2019年度に完成予定の小石原川ダム(4,000万m3)を上回り、県内最大の貯水量を誇る。水力発電設備も有しており、自らダム管理用の電力を発電し、設備へ供給可能となっている。

 1978年の福岡大渇水を契機に建設計画が持ち上がり、ダムの予備調査が開始されたのが79年。以降、ダム軸の決定(91年)、集団移転完了(06年)、ダム本体工事着手(12年)、ダム本体コンクリート初打設(14年)、そして今年3月の竣工まで、約40年を要した一大プロジェクトである。

 竣工式典のなかで小川知事は、「朝倉市の災害時に、寺内ダムが下流域の水位上昇を大幅に抑え、また、上流からの流木をダムで受け止め被害の拡大を防いだ。ダムは治水対策としても大きな役割をもつ。また、福岡市近隣は幾度となく渇水に見舞われたことから、渇水対策としても有効である」と語った。その後、記念碑除幕やテープカットなどが行われ、堤上で“渡り初め”などが行われた。

熟練の技術を分析して操作プログラムに導入

関係者による渡り初め

 五ケ山ダムでは、巡航RCD工法といわれる新しい方法でダム堤体が構築されたほか、さまざまな新しい技術が取り入れられた。

 その1つが、鹿島建設(株)が提唱する次世代建設生産システム「クワッドアクセル」というもの。これは、振動ローラーとブルドーザーを無人化運転するもので、いわゆる建機類の自動化である。このシステムは、人が運転するダンプが現場に到着し、荷台のコンクリートをブルドーザーの待機位置手前に降ろすと、無人のブルドーザーが動き出してコンクリートの山を平らにし、作業終了後は直ちに待機位置に戻るというもの。次のダンプが到着してコンクリートを降ろすと、ブルドーザーは先ほどと同じ作業を行い、再び待機位置に戻る。オペレーターが運転する有人運転では、熟練度によって施工方法や時間のかけ方にバラつきがあり、場合によっては施工状況に大きく影響をおよぼすことも考えられるが、このシステムではその問題が解消されたかたちだ。

 鹿島の担当者は、「熟練者の操作するブルドーザーの動きを細かく分析して制御プログラムに組み込んだことで、効果的に仕事ができ、質の均一化含めて施工の時短に大きく貢献できた」とコメント。五ケ山ダムでの施工に限らず、今後も重機などの自動運転を推進していくとしている。

4つの対策目的、渇水だけでなく洪水も

県内最大の総貯水量4,020万m3を誇る

 五ケ山ダムに寄せられる期待の大きさは、福岡の地理的要因にも起因する。たとえば、東京都では利根川水系や荒川水系、大阪市では淀川水系、名古屋市では庄内川水系など、日本の大都市では一級河川を有しているところが多い。だが、福岡市の場合は、流れ込む河川といえば二級河川の室見川、那珂川、多々良川などしかなく、そのため過去には何度も水不足に見舞われ、“渇水都市”とも揶揄されてきた。今でも一級河川の筑後川の筑後大堰を始め、周辺地域からの供給に頼っているのが現状だ。

 五ケ山ダムには大きく4つの対策目的がある。(1)「那珂川沿岸地域の水害への洪水調節」、(2)「日照り対策として既得取水の安定化と河川環境の保全」、(3)「水道水の確保」、(4)「異常渇水時の緊急補給」だ。そのなかには、福岡地区の悲願である水の安定供給による渇水対策だけでなく、洪水対策も盛り込まれている。小川知事のコメントにあるように、未曽有の大災害を引き起こした昨年7月の九州北部豪雨では、ダム上流の流木がダム湖にとどまることで、減災の威力を大いに発揮した。五ケ山ダムが位置する二級河川・那珂川では、09年7月の豪雨時に増水し、下流に位置する那珂川町の役場や公共施設などが浸水する被害も出たが、五ケ山ダムの完成により、今後はそうした水害も未然に防ぐことができるようになるだろう。

 40年のときを経てついに完成した県下最大のダムには、渇水対策だけでなく、さまざまな災害に対する“転ばぬ先の杖”としても大きな期待が寄せられている。

【道山 憲一】

 

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