2024年05月22日( 水 )

復旧・復興の歩みは道半ば、熊本地震被害・インフラ復旧の現状(前)

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 観測史上初の震度7を2回記録し、熊本県内の社会インフラなどに大きな傷跡を残した熊本地震の発生から、2年が経過した。道路や水道などその多くは復旧しているが、復興住宅の建設や益城町の区画整理事業、落橋した阿蘇大橋の復旧など、これから本格化するものもある。甚大な被害を受けた熊本城の復旧完了は2037年度の見通しで、復旧への道のりは、まだまだ長い。被害を受けたインフラ復旧の進捗はどうなっているのか、復旧の課題や見通しはどうなっているのか。熊本市や熊本県のインフラ関連セクションに取材した。

「復興のシンボル」熊本城、20年間かけて復旧へ

再建が進む天守閣と石垣が崩れたままの戌亥櫓

 熊本城は、13棟すべての重要文化財建造物、20棟の再建・復元建造物、石垣など、城内のほぼすべての構造物が被害を受けた。被害総額は約634億円。とくに、石垣の被害は大きく、全体の約30%に当たる約2万3,600m2で崩落や膨らみ、緩みが発生した。

 発災翌日、職員が城内の被害状況などを調査。加藤神社付近など私道や民地に崩落した石垣などを確認した。2016年度中には、倒壊などのさらなる被害拡大の防止や工事車両の動線となる南大手門周辺の通路確保のための緊急工事を始め、倒壊した櫓の部材回収や石垣の撤去工事、飯田丸五階櫓の倒壊防止対策工事などの緊急を要する応急対策工事を実施。同年12月には「熊本城復旧基本方針」を策定した。17年度は、天守閣復旧工事に本格的に着手したほか、飯田丸五階櫓の石垣復旧工事にも着手した。

 18年3月、市は熊本城復旧基本計画を策定。計画期間は20年間。復旧事業は、短期(22年度まで)と中期(37年度まで)に分け、個別の復旧スケジュールを立て、実施する。計画の進捗管理として、必要に応じ5年ごとに見直しをかけていく。

崩れたままの石垣(西大手櫓門付近)

 市民・県民にとって「復興のシンボル」である天守閣の復旧は、最優先に着手。19年秋ごろに大天守の外観復旧が完了予定で、21年春ごろの全体復旧を目指し、工事が進められている。天守閣復旧工事では、ブレースなどの耐震要素を各所に設置するとともに制振装置を設置するなどの耐震補強を実施する。

 重要文化財建造物の復旧に際しては、文化財的価値の保全のため、可能な限り元の部材を使用して再建を進める。部材は回収後、倉庫に保管。組み立てなどの工事の際には、原則として伝統技法を用いて復旧していく。宇土櫓は、鉄骨の筋交いによる耐震補強が行われていたこともあり、今回屋根や壁の破損はあったものの、倒壊はまぬがれた。伝統技法による復旧を基本としながらも、必要な箇所については、文化財的価値を損ねない範囲で耐震補強も実施していく予定。どのような耐震工法を取り入れるのかは、工事ごとに個別に判断していく方針だ。

 熊本城の復旧には、20年という長い歳月と多大な経費を要するほか、高い専門知識や技術、多くのマンパワーも要することから、市単独で行うのは困難。国土交通省、文化庁、熊本県や関係団体との連携が不可欠だ。国土交通省からは、都市災害復旧事業として補助が出ているほか、文化庁からは、重要文化財建造物、復元建造物、石垣などの復旧に対して補助が出ている。両省からの復旧に向けた技術支援もある。市の負担はかなり軽減されており、復旧の後押しになっている。

仮設住宅暮らし解消のカギは被災者の自立心を育てる支援

 熊本市の仮設住宅などに暮らす世帯数は、18年4月末時点で約8,900世帯。そのうち、約5,600世帯が供与期間延長を希望。再建希望先の割合は、自宅再建、民間賃貸住宅がそれぞれ約4割、残りの約2割が公営住宅となっている。17年7月から住まい確保支援事業をスタート。不動産関係に詳しい13名のアドバイザーの下、仮設住宅などに暮らす世帯の希望に応じて不動産会社の紹介や入居手続きの支援などを行っている。同市では、これらの支援を通じて、18年度中にすべての世帯の住まい再建についてメドをつける考えだ。

 仮設住宅などの入居者は、災害救助法に基づき、原則2年間は家賃負担なく入居できる支援制度がある。工事業者不足等の状況もあり、国が定める要件に該当して認められれば、最長1年間延長となる制度。だが、東日本大震災では、要件なしで延長が認められるという異例の運用がなされた。市の担当者は、「行政の役割は、被災者の自立を支援することにある。被災者の自立につながる支援に重きを置いて取り組んでいる。神戸市や仙台市の教訓を生かしていく」と話している。

費用確保できず、橋梁耐震化進まないジレンマ

 熊本市の道路延長は約3,700km、橋梁は約2,900橋ある。このうち、地震による道路被害は7,416カ所、橋梁被害は657カ所、被害総額は70億円以上に上った。幹線道路44カ所を含む約200カ所が通行止めになり、渋滞が発生。市役所から植木ICまでの区間では、地震発生の翌日、移動に通常時の約3倍の時間を要した。

 被害による影響が大きかったのは、熊本駅正面に架かる白川橋(1960年建設)。鋼製支承が損傷し、ジョイント部に段差が発生。緊急輸送道路上にあったが、余震にともなう落橋のリスクがあったことから、通行止めは2カ月間におよんだ。同橋は、国土交通省の支援を受け、6月後半に応急復旧が完了。通行止めが解除された。17年5月中旬には、破損した支承部分4カ所の大型ゴムへの交換などが完了。1年以上ぶりの本復旧をはたした。

 同市では、地震前の13年度に橋梁の耐震補強計画を策定。重要度の高い176橋を対象に耐震化を進めることにしていたが、18年3月末時点で補強済み2橋にとどまっている。緊急輸送道路上の橋長15m以上の橋梁の耐震化率は、全国ワースト4位と遅れをとっている。最も重要度の高い14橋については、当初の計画通り、19年度中に耐震補強を完了させる考えだ。「耐震補強には費用がかかる。一気にやるわけにはいかない」というジレンマがある。

(つづく)
【大石 恭正】

 
(後)

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