<第五章 谷本次期頭取誕生の軌跡>
協力者たちとの絆(11)
谷本が副支店長になった翌年の春、後の「頭取クーデター」に登場する二人の行員が本店営業部に配属されてきた。ちょうど栗野が谷本から依頼を受けて、山上の保険勧誘を始めるほんの少し前であった。
その一人が栗野の高校・大学とも後輩に当たる川中隆史であった。川中は地元の海峡西高を卒業。現役でS大学に入学し、卒業と同時に維新銀行東部支店に入行したが、1年目に転勤して本店営業部の外国為替係に配属された。
川中の実家は海峡市の西端にある桜町で割烹「千鳥」を経営していた。桜町は財閥系の三星造船が近くにあり、その造船所の接待に良く利用される料亭であった。店の奥には座敷があり、20名以上が会席できる大広間と、7~8名が会席できる部屋が4つあり、いつも繁盛していた。
谷本は総務部次長時代、組合幹部との懇親会にはこの千鳥をよく利用しており、隆史の父親である店主の川中利男と懇意な間柄であった。
ある日谷本は川中から
「息子は谷本さんと同じS大学に通っていますが、維新銀行に入れてもらえますか」
と話しかけられた。
「絹田頭取もS大学の出身でもあるし、ぜひ息子さんにうちに来るように言ってみたらどうか」
と谷本が勧めたことが縁で、川中は維新銀行に入行した。
本店営業部への転勤により、谷本が上司となる奇貨に恵まれることになった川中は、その後、谷本の推薦を受けて組合の書記長となり、維新銀行の幹部への道を歩むことになる。
一方、川中と高校の同窓であった北野俊弘が京都の私立D大学を卒業し、1年遅れてその年の3月、新入行員として本店営業部の預金係に配属されてきた。翌年、係替えにより預金係から得意先係に異動した北野は、栗野の助言を受けて山上の保険勧誘に積極的に協力し、次第に谷本の信頼を得るようになった。やがて北野も谷本の推薦を受けて組合の委員長に抜擢され、維新銀行幹部への階段を上ることになった。
その翌年には、川中と北野の高校時代に同窓であった堀部正道が、北野と同じD大学を卒業して本店営業部の公金係に新入行員として入って来た。谷本の推薦を受けて組合の幹部となり、順当に役員となった北野と川中とは対照的に、彼らとは違う道を歩き後に役員となった堀部は、谷本相談役の指示によって引き起こされた「頭取クーデター」で、この二人と敵味方に分かれて争うことになる。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)
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