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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(58)
経済小説
2012年6月14日 07:00

<第五章 谷本次期頭取誕生の軌跡>

協力者たちとの絆(14)

 東南地区の統括責任者である沢谷は、地区支店長を集め毎月会議を開催している。新任の支店長が赴任すると、近くの料亭で新旧支店長の歓送迎会が催される。
栄転して去る支店長達もいれば、支店長職を解かれ検査部の検査役や他地区の次長として転出する者達もいる。やっとこの地域から抜けられるとの思いと、一生懸命に支店業績を上げたにもかかわらず、沢谷の意に添わず左遷された悔しさに、万感の思いを込める者も多かった。
 沢谷に取り立てられ上位の支店に栄転していく支店長も、
 「沢谷常務のご指導のお陰で新しい支店に赴任することになりました。新任地に参りましても感謝の気持ちを忘れることなく、力一杯頑張ります。沢谷常務を中心に東南地区が益々発展と、ご列席の皆様方のご健勝とご多幸をお祈り申しあげまして私の挨拶と致します」
 と謝辞述べたが、胸中は複雑な思いであったのかもしれない。
 第五生命の山上正代がいるこの地域は、谷本と山上そして沢谷との絶妙なトライアングルの下に支配された、「えもいわれぬ」独特の雰囲気に包まれていた。退任する支店長にとっては、顧客よりも支店長人事に影響力を持つ山上に気を遣う毎日から解放され、新天地に活路を求める心境であった。

grs.jpg 一次会が終わると、三々五々タクシーに乗って二次会へ向かう。二次会の会場はいつもクラブ「銀座」であった。一次会ではおとなしく振舞っていた新任支店長も二次会では緊張の糸もほぐれて杯も進むようになる。次第に酔いが廻って盛り上がった頃を見計らい、上機嫌になった沢谷はクラブ「銀座」のママを呼んだ。新任の支店長を交えて乾杯すると、「ママ、例のものをキープするので、頼むよ」と大声を上げる沢谷に、ママが持ってきたのは一本5万円の高級ウイスキーのボトルであった。新任の支店長は沢谷に命じられるまま、ボトルキープに応じることが恒例となっていた。
 このキープされたボトルの請求書は新任支店長に回るが、そのボトルは沢谷が顧客と飲む時に使われ、新任の支店長は決して口にすることはできなかった。酔いが回るにつれ、沢谷の行動は大胆になっていく。ホステスの胸に手を入れ、千円札を挟みだした。「おい君もやれ」と新任支店長に声を掛けた。この光景を目の当たりにした新任の支店長には、普段の人懐こい沢谷と違う、高卒で常務まで上り詰めた彼の屈折した生きざまを、側面から覗き見る想いであった。

 沢谷の維新銀行の常務としての品格を欠くその行動に対して、誰も何も言えなかった。何も言わない地区支店長の対応を見た新任の支店長は、以後沢谷に従うことを強要されるようになっていく。山上の保険勧誘で谷本頭取の腹心となった沢谷に、面と向かって刃向かう者はなく、マインドコントロールを受けた信者のように、東南地区の支店長は沢谷の意のままに動かざるを得なくなっていった。希望に満ちて赴任した新任支店長に、沢谷と山上の存在が大きく立ちはだかることになる。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」

▼関連リンク
・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)


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