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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(62)
経済小説
2012年6月20日 14:40

<第五章 谷本次期頭取誕生の軌跡>

協力者たちとの絆(18)

 そもそも「谷野頭取交代劇」が起きることになった原因は、栗野会長、谷野頭取体制が発足し、2年目迎えて間もなく、維新銀行では「行員による顧客預金の着服」や「顧客情報の漏えい」などの不祥事が表面化。2件とも谷本頭取時代に発生したものが、谷野頭取になって表面化した不祥事であった。谷野頭取は陣頭に立ってその処理に追われることになった。また事務部門を担当する木下秀男取締役、経営企画を担当する小林辰彦取締役は、中国財務局による呼び出しや業務改善命令による改善計画計書の提出作業などもあり、維新銀行は綱紀粛正ムードに包まれることになった。2度の業務改善命令を受けており、新たに不祥事が発生すれば一部の店で業務停止命令が下されるかもしれない状況であった。

sora_20.jpg 事態を重く受け止めた谷野は、植木頭取時代に発生した「定期証書偽造事件」を教訓として臨時の全店長会議を招集。不祥事の再発防止のため綱紀粛正を徹底的に実行する方針を伝えた。また不祥事の未然防止のため頭取宛の目安箱を設置した。
 しばらくすると頭取宛に「維新銀行内では第五生命の山上に対する保険紹介が広範囲に行われ、しかもその多くは銀行の優越的地位を利用して保険料ローンの取り組んでおり、たとえ紹介だけと言い張っても事実関係を調査すれば、銀行ぐるみと判定される勧誘をしている。もしも資金繰りに窮した取引先が財務局に駆け込めば大変なことになる」などと記された、山上の保険勧誘に関する内容の投書が何通も届くようになった。

 その投書には差出人名はなかったが、記載された内容は谷野が想像を絶するものであった。谷本を中心とする組合出身の役員と、山上との保険勧誘を巡る癒着の実態が赤裸々に書かれていた。また最年少で取締役首都圏本部長となっていた古谷についても、「支店長時代から山上の保険勧誘を積極的にやっていたし、今も親しい取引先に声を掛けている」との投書もあった。
 谷野は谷本が山上と非常に親しい関係にあるとは聞いていたが、そこまで深く山上が維新銀行に入り込んでいるとは知らなかった。ただ谷野にも思い当たることがあった。谷本と交代して頭取室に谷野が移ったとき、秘書役から2本の電話があり、一本は普通の電話で、もう一本は谷本と山上との専用電話であると知らされたことがあった。谷野は一般電話だけを残し、山上とのホット回線は取り外すよう指示した。その電話回線は相談役となった谷本の部屋に付け替えられた。
  
 谷野は谷本と山上との異常な関係に気付いてはいたが、栗野会長や沢谷を始めとする組合幹部出身の役員達が、山上の保険勧誘に異常なまでに関与しているとは知らなかった。谷野は組合幹部出身の役員達を次第に白い目で見るようになり、また山上の持ちこむ保険料ローンの取り扱いを自粛するよう、審査担当の梅原取締役を通じて全店に指示を出させた。この出来事が後に展開する「頭取交代劇」の引き金になろうとは、谷野は夢にも思わなかった。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」

▼関連リンク
・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)


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