<第五章 谷本次期頭取誕生の軌跡>
協力者たちとの絆(20)
歴代の頭取であった絹田、植木は亡くなるまで共に現役の取締役であった。都市銀行クラスであれば、頭取2期4年または3期6年。同様に2期~3期会長後、相談役と順送り人事が通常である。頭取や会長経験者は相談役に退いても、秘書や運転手付きの専用車が用意される。
しかし地方銀行の場合、たとえ頭取や会長を経験しても、取締役を退任すると秘書も専用車もなくなり、ただのOB扱いとなる。言いかえれば維新銀行の現役であれば、病気になっても秘書が病院の手配や、家族の送り迎えまで全て面倒を見てくれるが、取締役を退任すると、自前でタクシーでの通院となる。あらゆる面で個人の生活となる。これが地方銀行と都市銀行の待遇面の差であった。
絹田と植木を見て来た谷本もそれを踏襲することにした。谷本には10年間、維新銀行のドンとして君臨して来たとの自負があり、たとえ取締役のつかない相談役であっても、今役員になっている者は自分が指名した者たちであり、歴代頭取と同様の待遇をしてもらえるものと考えていたが、谷野の自分に対する態度の豹変ぶりに、不信感を抱くようになっていた。このまま谷野が頭取を続けると、相談役の座も追われるのではないかと思うようになった。谷本は病院を後にすると、栗野と交わした話を沢谷専務と相談することを決心した。
谷本相談役からの電話を受けて沢谷は、翌日谷本相談役室を訪れた。谷本は、
「昨日 栗野君を見舞い行ったが、入院は当分長引くようなことを言っていた。銀行に迷惑をかけそうなので退任も考えていると言っていた。ただ谷野頭取の経営について大いに不満を持っており、自分だけが退任して、このまま谷野体制が続くことに対しては我慢ならないと言っていた。自分と一緒に谷野頭取も退任させるのであれば、それに従うと言っていたが、君はどう思うか。」
と沢谷に話しかけた。
沢谷は、
「丁度谷野頭取は任期ですね。その再任をさせないようにする方法を考えればいいわけですね」と沢谷は応えた。
谷本は、
「取締役会で動議を提出し、取締役15名のうち過半数の8名以上が再任に反対すれば、谷野君を取締役から下ろすことはできる」
と沢谷の反応を窺うように話した。
沢谷は即座に、
「それをやりましよう。最近の谷野頭取の経営のやり方に私を含めて不満を持っている役員は多くいます。具体的にはどうすればよいでしようか」
と谷本の指示を仰ぐような口調になった。
谷本は、
「まずは8名を確保することだが、君の考えでは誰と誰が賛同すると思うかね」
と沢谷の顔をじっと見つめながら聞いた。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)
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