<第五章 谷本次期頭取誕生の軌跡>
協力者たちとの絆(22)
その日の夕方、沢谷は東部支店長の松木取締役と、本店長の大島取締役の2名を東南支店に呼んで、「谷野頭取罷免」の同意を取り付けることに成功した。こうして取締役会メンバーの過半数にあたる8名が固まった。目標の9名に対して、残りは原口取締役1名となった。
谷野頭取から役員に任命された原口の立場は微妙であった。谷本の推薦を受けて組合の書記長となり、銀行幹部への足掛かりを掴み役員となった。しかし役員に推薦してくれたのは谷野頭取であった。組合出身の役員たちからは谷野頭取の厳しい経営姿勢に対して不平や不満があることは聞かされていたが、まさかこの様な計画が具体化するとは思っていなかった。
原口にとってはまさに青天霹靂の話であったが、沢谷から「谷野頭取罷免の計画」を打ち明けられると、もはや後戻りできないことを悟った。
沢谷から、
「谷本相談役の了承も得ている。君も谷本相談役の引立てがあったからこそ取締役になれたのであって、谷野頭取から役員の 指名を受けたことを気にしなくても、元々役員になる予定であったので心配することはないよ」
と話し、
「この計画には栗野会長、吉沢常務、北野常務、川中常務、松木取締役、大島取締役、古谷取締役と私の8名が既に加わることになっており、君が入れば9名となり、計画は間違いなく成功するので是非参加してほしい」
と、沢谷は原口の顔をじっと見つめ、深々と頭を下げた。
沢谷の話を聞いて既に断ることが出来ない状況にあった。意を決した原口は、谷本を頂点とする組合幹部同士の血縁で固まった組織のなかで、村八分になることを恐れ、沢谷の説得を受け入れることになった。
原口は、自分を役員に指名してくれた谷野を見限り、クーデター派の最後のメンバーに加わることになった。沢谷の説得に応じ、谷野頭取罷免のキャスティングボートを握ることになった原口は、その心の葛藤から逃れるように、部下を連れて毎晩中洲の町に繰り出していたとの話が後に伝えられた。
谷野頭取のもとで何年も取締役を続け、その経営姿勢に問題があり、何度進言しても態度を改めないため、罷免に同調するのであれば幾ばくかの言い訳は成り立つが、取締役に就任して僅か9カ月後に、組合幹部出身の仲間からの誘いに乗って谷野頭取罷免に参加した原口の行為は、取締役としての資質を大きく問われるものであった。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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