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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(69)
経済小説
2012年6月29日 07:00

<第六章 谷本次期頭取誕生の軌跡>

クーデター未遂事件(1)

 谷本と組合幹部出身者、それに山上とのトライアングルで結ばれた絆について述べて来たが、話を元に戻し、雌伏した首都圏本部長の谷本が、如何にして頭取の座を射止めることができたのかを述べていきたい。

 谷本は専務取締役営業本部長とし、2年間采配を振ったが、植木頭取が期待したほどの業績を上げることができず、1989年(平成元年)6月、閑職の首都圏本部長に就いていた。1期2年の間に、如何にして専務取締役の地位を守ることができるかを腐心する毎日であった。臥薪嘗胆の首都圏本部長の谷本は、上京してくる役員達との会食を頻繁に繰り返し、親交を深める努力を惜しまなかった。しかし接待にかかる費用を首都圏本部の交際費で処理することはできなかった。仲間内との飲食代を援助したのは第五生命の山上正代であった。丁度組合幹部と懇親を深めるために使ったスナック「果林」の飲み代をM建設が引受けたのと同じ方法であった。

bi_2.jpg 谷本は首都圏本部長に就任して以来、植木頭取が上京しても営業本部長時代と変わらない態度を崩さなかったが、植木の腹心である笹川常務が上京してくると必ず一緒に食事をするように心掛けた。その折には必ず「今この様に専務でいられるのも植木頭取のお陰であり、笹川常務の尽力の賜など」と話し、酒を酌み交わしながら、「植木に対して反抗の意志がないこと」を伝えるように心掛けていた。谷本の笹川に対する精一杯の歓待は、大きな効果として現れた。谷本に野心がないことが間接的に笹川を通じて植木に伝えられたことだった。

 植木には独裁者的なイメージが強かったが、経営姿勢はバランス感覚を持っていた。取締役の選任においても、その行動や発言がしっかりした者であれば、自分とは違うスタンスであるからといって登用しないことはなかった。
 たとえて言えば、舟の左舷に人が集まれば沈没するが、左右にバランスよく乗れば重心が安定し、船頭は自在に舟を操ることができる。むしろ自分の経営方針に反対の意見を述べる者でも、その理論が整然としていれば参考にするほどの度量の広さを持っていた。
 植木は、経営トップがぶれない経営方針と倫理感を持って経営を続けていれば、たとえ役員間で意見の相違はあっても、多数決で決まれば全員が一致団結してその決定に従うという、維新銀行に根付いた風土を大切にしていた。
しかし自分の考えもなく付和雷同する役員や、「役員は役員同士が互いにその行動を監視および牽制すべきである」との考えから、役員間が徒党を組むことは許さなかった。
 厳しい経営態度を貫いた植木ではあったが、「人事の植木」と言われるほど公正に人を見る、しっかりした選球眼を持っていた。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」

▼関連リンク
・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)


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