<第六章 谷本次期頭取誕生の軌跡>
クーデター未遂事件(2)
谷本が首都圏本部長に就任して2年近くなり、役員改選の時期が近づいてきた。
植木頭取は、当初谷本を1期だけ首都圏本部長にして退任させる予定であった。しかし笹川常務によると、
「谷本専務と何度も一緒に飲んだが、植木頭取のことを決して悪いようには言わなかったし、むしろ植木頭取を裏方で支える首都圏本部長としての任務を果たしていきたい」
と語っていたと伝えられたことや、取締役会議における谷本は、是々非々の立場から自分の考えを持って発言していることなども考慮して、谷本の任期をもう1期2年延長する方針を固めた。当初谷本退任で組んでいた人事案を修正し、谷本続投の役員人事案を作成するように笹川に指示した。
1991年の3月中旬、笹川常務と役員人事案の最終調整の打ち合わせをすることになった。まず常務取締役・取締役各1名の退任、その後任に第12代組合委員長を経て、大阪支店長の桜木高志(西部大卒)と検査部長の吉原昌信(S大卒)の2名を取締役候補に選ぶことが決まった。昇格人事については取締役2名を常務に昇格させることにした。
笹川を通じて植木頭取との関係修復に成功し、首都圏本部長として留任することが決まった谷本は、もう一つの顔を持っていた。営業本部長から首都圏本部長に更迭された時は、いつ退任を言い渡されても文句を言える立場ではなかったが、この2年に及ぶ雌伏期間中に、山上正代の資金援助により気を許し合う役員たちと懇親を重ね、谷本のためなら一肌脱いでも良いと言う同志を集めることに成功していた。
その中心となったのは組合幹部出身の取締役4名であった。それに絹田から取締役に任命され植木に距離を置く3名が加わると、過半数を確保できると谷本は読んでいた。谷本は極秘裏に、植木頭取包囲網を構築できるほどの勢力を持つようになっていた。
植木が1974年頭取就任以来実に17年を経過しており、いつそのポストを譲ってもおかしくない状況だった。役員の中にも人心一新のために頭取交代を望む声も強くなっていた。そのためもし谷本に退任を迫るようなことがあれば、谷本を押し立てて植木頭取の退陣を迫ろうとの「頭取交代論」が密かに話し合われていた。
植木にしても笹川にしても、そのようなことを極秘裏に計画しているとは知る由もなかったが、たまたま谷本の続投が決まったことから、この話は立ち消えとなった。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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