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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(75)
経済小説
2012年7月 9日 07:00

<第六章 谷本次期頭取誕生の軌跡>

クーデター未遂事件(7)

nay2.jpg 笹川常務は3月上旬、谷本首都圏本部長と面談するため上京した。首都圏本部長の応接室に二人きりになったのを見計らって、笹川が、
 「実はご存じの通り、今まで病気一つしなかった植木頭取が前立腺肥大と診断されて、少しショックを受けておられるようです。今日お伺いしたのは、植木頭取は就任以来18年になり、頭取交代をそろそろ考えておいた方がよいとのお考えがあり、後継者に竹下常務を今のところ充てる予定にしているので、そのことで事前に谷本専務の了承を取っておくようにと言われて来たのですが」
 と谷本の顔色を窺いながら話を切り出した。
 続けて、
 「そうなると谷本専務に勇退をお願いすることになるので、その辺についてもお話をしておくようにと言われています」
 とやや緊張した声でその趣旨を伝えた。
 谷本は笹川の話をじっと腕組みをしたまま聞いていた。暫く考えて、
 「それは決定したことなのかね。まだ相談の段階なのかね」
 と言葉を選びながら笹川の顔に目をやった。
 笹川は、「谷本専務のご了解を頂ければその方向で動くことになりますが、まだ竹下常務にも話してはいません。この話は今のところ植木頭取と私と谷本専務の三人だけです。植木頭取からまず谷本筆頭専務にだけはお伝えしておいた方がよかろうとのことで参りました」
 と丁寧な言葉を使って答えた。
 谷本は、
 「ところで植木頭取の病気は前立腺肥大と聞いているが、ある人の情報によると前立腺がんに間違いないと言っている。笹川常務、本当は前立腺がんでしょう」
 と問いかけてきた。
 笹川は一瞬ドキッとしたがすぐ冷静さを取り戻し穏やかな口調で、
 「私は前立腺肥大としか聞いていません。それも快方に向かっていると聞いています」と返答するのが一杯であった。お互い冷たくなったお茶をすすりながら、相手の反応を見る沈黙の時が流れた。
 やがて穏やかな口調で谷本が、
 「笹川常務知っているかね。竹下常務がスナック『小雪』のママと懇ろな関係にあると言うのを。もし竹下常務が頭取になってそれがわかったら、あの狭い海峡市で大スキャンダルになると思う。もう少し身体調査をしてから決めた方がいいかと思うが。その辺植木頭取はご存じだろうか」
 と話した。
 笹川は意外にも谷本から女性問題を持ちだされるとは思ってもいなかった。むしろ谷本と第五生命の山上正代とは男女の関係ではと疑っていたのに、ここで竹下常務とスナック『小雪』のママとの関係が持ちだされるとは夢にも思わなかった。
笹川も竹下常務と小雪のママとが深い関係であることが気になっていた。改めて谷本に問われて返答に困ったが、言葉を濁して
 「その辺については、もう一度よく調査することにします」
 と言うのが精一杯であった。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」

▼関連リンク
・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)


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