<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(8)
谷本は、
「僕の得た情報では植木頭取は前立腺がんで、ホルモン療法を受けていると聞いている。体調は快方に向かっているとは言え、やはり今のうちに後継者を決めておくことは大事と思う。ただ、先に言ったように竹下常務の女性問題は、大きなスキャンダルになる可能性が高いのでその辺がはっきりしないと、今の時点で『はい、そうですか』といって、任期途中の退任を受けるわけにはいかない。その辺の話を植木頭取に話しておいて欲しい。その結果を聞いた上で、今後の身の振り方について返事をさせてもらいたい」
と述べ、谷本との話し合いは物別れの形で終わった。竹下常務の女性問題が頭取交代の大きな障害となった。
笹川は夜遅い便の飛行機で海峡市の自宅に戻った。翌朝植木の頭取室に入り、昨日谷本と話した内容を説明すると、植木は、
「竹下君にそんな話があるとはなあ」
と、それでもまだ信じられないような様子であった。笹川は、
「私の耳には竹下常務が小雪に足繁く通っており、小雪のママと怪しいのではとの噂があるのを知っていましたが、まさか首都圏本部長の谷本専務の耳にまで届いているとは思いませんでした。谷本専務の会話の中に、確証を掴んでいるような言い回しが少し気になりました」
と、淡々と話した。
続けて笹川は、
「どうも竹下常務の女性問題を持ち出したのは、竹下君を頭取候補にすることに対して反対の意思表示と思われますし、頭取の病状についても前立腺がんだとはっきり言いましたから、情報網はしっかりしているようです」
と、言い切った。
植木が、
「どうであれ、任期途中で谷本君を下しておかないと後々面倒になる」
と、笹川の顔を見ていった。
笹川は、
「谷本専務は昨年6月に改選したばかりですから、すんなりとはいかないと思います。かなり強引にやる必要があると思います。最近は2年半前と違って、かなり力をつけてきていますから侮れないですね。聞くところによると谷本専務は組合出身の役員だけでなく他の役員とも頻繁に接触しているようです」
と話し、続けて、
「失礼な言い方かもしれませんが、もし植木頭取の病状が進行し、先の見込みがないと言うことになれば、谷本専務を頭取に担ごうとの声が役員の間からが出てくるかもしれません。むしろ谷本専務はそのような声が出てくるのを待っているような気がします」
と、一気に話した。
植木は3年前、谷本を退任させて海峡市のM開発の理事長に据えるチャンスあったが失敗したのを思い出した。植木は、
「やはりあの時に、谷本君を退任させておいた方が良かったかもしれなかったか」
と、呟いた。続けて植木は、
「極秘で竹下常務の女性関係が本当かどうか、もう一度調べておいてくれないか」
と竹下を頭取候補とする考えを捨てきれない様子であった。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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