<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(9)
笹川常務が秘密裏に調査した結果、竹下常務と小雪のママとが男女の関係となっていることはほぼ間違いないことがわかった。その旨を植木頭取に報告すると植木は、
「頭取は気品がないと務まらない。竹下君はその点で失格だ。後継者については当面見送ることにしよう。幸いに体調も良くなってきているし、今すぐ頭取を退くことはしない。少し時間はかかるかもしれないが、若手の役員のなかから次の後継者決めることにしよう」
と、むしろほっとしたような顔付きで話した。
笹川は、
「谷野専務にどのように話しますか」
と、植木に問いかけた。
植木は、
「そうだねえ、体調も良くなってきているので後継者を選ぶのは今すぐにというわけでもないし、竹下君についてはあくまでも候補の一人として名前を上げたのであって、決めたわけでもない。今回頭取候補の選定については白紙となったと伝えてくれないか」
と、話した。
やや間をおいて、
「これが一番大事なことだか、いずれ近い将来に若い役員のなかから選ぶことになるので、谷本君には今回任期途中ではあるが、勇退してもらいたい旨を伝えておいてもらおう。このまま谷本君を専務にしておくと次の手が打ちにくくなるので、竹下君を頭取候補にするのは白紙であっても、谷本君には役員を降りてもらうことにする」
と、自分自身にも納得させるようにはっきりとした口調で言った。
植木の指示を受けて笹川は東京に足を運び、再度首都圏本部長の谷本と面談した。笹川は、
「竹下常務の女性問題は調査の結果、やはり間違いはありませんでした。維新銀行の信用問題にかかわることであり、役員としての資質を問われる問題です。情報ありがとうございました。植木頭取の体調も回復してきており、すぐに頭取を交代するわけでもありません。あくまでも竹下常務は将来の頭取候補の一人として名前を上げただけで、植木頭取が後継者に決めたわけでもありません」
と、話し、続けて、
「植木頭取は若手から頭取を選ぶことにしており、『誠に申し訳ないが、谷本専務には任期途中ではあるが後進に道を譲って頂きたい』と植木頭取から伝言がありました。正式に植木頭取が上京の折、お話しされると思います」
と、伝えた。
谷本は「はい」とも「いいえ」とも言わず、ただ黙って聞き流す態度を取った。谷本は、
「やはり言ってきたか。自分を退任させるためにあえて組合出身の竹下を頭取候補に仕立て上げ、反応を見ようとしたな」
と、植木の顔を思い浮かべながら心の中で呟いた。笹川常務は一通り、植木頭取の使者としての役割を終えて帰っていった。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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