「世界の皆さま、南相馬市へのご支援をよろしくお願いします」――福島第一原発事故直後、動画サイトを通じて世界にこう訴えた福島県南相馬市長の桜井勝延氏。あれから1年以上が経ったが、いまだに国家主導の復興は道半ばだ。市民が放射能という見えない恐怖と戦うなか、度重なる過酷な決断を強いられてきた桜井市長は今、胸の内にどのような思いを秘めているのか。また、ここまで自身を支えてきた力の原点とは。
<今なぜ消費増税か>
話を戻せば、永田町の政治にしても、霞が関の官僚の動きにしても、マスコミにしても、日本の真の姿がこの被災地から「見えちゃう」状況になりました。もっとやるべきことは、被災地の住民が苦しんでいることを国が最優先課題として位置付け、復興するまで責任を持つという姿勢を見せて行動することです。そうしなければ、政治不信はどんどん強まるだけですし、市民は諦めと怒りを持ち始めます。これはどの自治体でも同じ状況です。そんなことをさせるのが政治家・官僚の目的なのかと逆に疑いたくなるくらい、大飯原発再稼働の話が唐突に出てきたりするわけです。
去年の夏を乗り切ったとき、どうして関東ではできたのに、関西では大飯原発を再稼働しなければできないのか。理由づけが電力不足であれば条件は同じですし、節電しようとする市民の感覚はもっと強くなっているはずです。それにも関わらず、電力会社と政府は「電力不足は再稼働なしには解決しない」と言うだけです。それこそが、この不思議な電力業界を取り巻く政治構造そのもののような気がします。
再稼働が決まったことで、住民は「福島は見捨てられた」と思ったでしょう。福島の仮設住宅でこれだけ苦しんでいる市民がいるなかで、大飯原発が再稼働したということは、「もはや福島の再生は関係ないのだ」と皆が考えているのです。
この話を少し前、内閣の閣僚たちにぶつけたことがありましたが、そのときは「その話と再稼働の問題は別だ」と言いました。それであれば、毎週金曜日に首相官邸前で行なわれた再稼働反対デモがあれだけの人数に膨れ上がっている現状を、どういう風に彼らが見、政治家としてどのような捉え方をし、どういう判断を下すのか。総選挙になったとき、きっとその問題が争点になります。
日本を本当に良い国にしようとすれば、政治が2分してでもこうした議論をしっかり踏まえて行動しなければ、政治不信は強まる一方だと思います。維新の会であろうが、減税日本であろうが、本当に今、国で起きている問題に対応できるかどうかはわかりません。
最近、東電と同じくらい腹が立つのが、財務省官僚がいろいろな場面であまりにも強い権限を持って財政を絞っていることです。我々に対する復興交付金まで絞ろうとしていますし、それはつまり被災地を見放すことにつながります。唐突に消費増税の議論を持ち出してきたこともそうです。
やはり、希望が見えない被災地の現況をそのままにしておいたのでは、日本そのものが世界から見放されていく可能性が大きいと思います。世界の動きというのは、現在の日本政治の動きとは違うと私なりに受けとめています。先進国である日本は、本来なら世界中をリードする生き方をしなければならないと思いますが、それを政治力で住民に選択させるくらい、国の政治家の強いリーダーシップが問われていると思います。
残念ながら、住民の感覚の方が、世界的に見てもより当たり前の感覚で、永田町近辺の感覚というのはまったく別個のものだと感じています。
<プロフィール>
桜井 勝延(さくらい かつのぶ)
1956年生まれ。福島県南相馬市出身。岩手大学農学部を卒業後、酪農に従事。2003年3月4日から10年1月10日まで南相馬市議会議員を2期務める。同年1月29日から南相馬市長。You Tubeで東日本大震災に見舞われた同市の被災状況を訴え、米タイム誌から「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。
※記事へのご意見はこちら