<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(20)
竹下は臨店と称して北九州支店を訪問した。目的は河辺常務が賛同しなかったため、桜木取締役を協力者にすることだった。
竹下は一階にある支店長室に案内されて、北九州支店の現状と傘下の地区支店の業況報告を受けた。桜木は取締役北九州支店長に就任して間がないが、営業推進部長から転出しており、地区の業績や計数についてはよく把握していた。ただ北九州は金融の激戦地区であった。福岡銀行が北九州本部を設置すると、西日本銀行、福岡シティ銀行も追従して北九州本部を立ち上げるなど3行の金融競争のなかに、隣県のしかも地元銀行でない維新銀行が割り込む形であった。
そのため維新銀行にとっては、対福岡銀行、対西日本銀行、対福岡シティ銀行との個別の金融競争に加え、福岡・西日本・福岡シティ銀行の地元3行の連合軍との戦いでもあった。常に地元3行から攻撃の対象にされており、維新銀行北九州支店長は営業本部の強力な業支援がないとやっていけないポストであった。
桜木は、一通り北九州地区の金融状況と維新銀行の北九州地区における今後の営業展開についての報告を終えると、竹下営業本部長から、
「今後とも本部一丸となって北九州地区の営業支援をしていくので、要望があれば何でも相談して欲しい」
と、全面支援の約束を取り付けた。
しばらくの間をおいて竹下が、
「桜木取締役、植木頭取が膀胱がんと言うのは聞いているかね。どうも病状は一進一退であまり良くないらしいね。聞くところによると後進に道を譲ると言うような話が伝わってきている。次の頭取に誰がなったらいいと思うかね」
と訊ねると、桜木が、
「順当にいけば、谷本専務ではないでしょうか」
と答えた。
竹下は、
「僕もそう思うんだが、どうも違うような動きが出てきているんだ。植木頭取は後継者の養成をしていなかったが、病気になって慌てて後継者の養成に動いているようなんだ。先日笹川常務が植木頭取の意向を受けて、昨年再任されたばかりの谷本専務に任期途中の退任を打診して来たそうだ。どうも植木頭取は自分が頭取を譲る前に、谷本専務を先に役員から外しておいて、その後に若手を頭取に抜擢しようとの考えらしい。
谷本専務としては昨年再任されたので、順番から言えば次期頭取は自分だと思っていたらしいんだ。それが急遽任期途中の退任を打診されて、かなりショックを受けておられるようなんだ」
と深刻な顔をして桜木を見た。桜木はどう答えていいのかわからず、
「そんなことになっているんですか。そうすると次期頭取候補はまだ決まってはないのですか」
と、訊いた。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)
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