<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(21)
頭取候補になったばかりに女性問題が表面化し、頭取候補から一転して役員からも外されるかもしれない竹下は、自分が次期頭取候補であったと桜木に言えず、
「今のところ決まってはいないが、谷本専務に退任を要請してきたことは、役員の中から誰かを後任に選ぶ布石ではないかとの憶測が飛んでいる」
と述べた。
竹下は桜木の方に向き直し、
「たとえ次期頭取を選ぶにせよ、谷本専務の任期途中の退任要請は筋が通らないのではないかとの意見が出ているが、桜木取締役はどう思うかね」
と、訊ねた。
桜木は、
「私は昨年6月に取締役になったばかりで、どうのこうのと意見を言える立場ではありませんが、再任をしたばかりなのに任期途中で退任を要請することは、確かにおかしいと思います。ただ、植木頭取が前立腺肥大の病気になり、後進に道を譲るための布石として谷本専務に退任を申し出たのであれば、植木頭取の言い分も一理あると思います」
と、桜木一流の冷静な考えを披露した。
竹下は、
「それはそうだが、そうなると谷本専務は退任を余儀なくされるが、それでいいのかということになる。君が維新銀行の第12代の組合委員長になれたのも谷本専務の推薦を受けたからであり、こうして取締役になれたのも、谷本専務が営業本部長の時に君を営業推進部長に推薦したお陰であると思うがどうかね」
と、谷本の名前を何度も口にした。続けて少し小さな声で、
「植木頭取の病気は前立腺肥大と言っているが、実際は前立腺がんで病状はあまり良くないそうだ」
と付け加えた。
桜木は確かに谷本専務のお陰もあるが、維新銀行の取締役となった以上、私情ではなく維新銀行の将来のためになる道を選択すべきだと考えるようになっていった。
桜木は、
「私は一体何をすればいいのですか」
と竹下に聞いた。竹下は、
「谷本専務に対して退任の要請をしてきている。谷本専務は受け入れるかどうかの返事を近いうちにしなくてはいけない状況にあり、どう返事すべきか迷っておられるのが現状だ。組合出身の取締役に相談したら、谷本専務にお世話になったまま、退任を見過ごすわけにはいかないと言って、自然発生的に谷本専務を守る会のようなものが出来て、組合出身では僕と宮下取締役、城戸取締役の3名、それと木村取締役と湯原取締役の2名が賛同しており、今のところ谷本専務を入れて合計6名が結束して谷本専務の退任を阻止するようになっている。あと1~2名が追従する予定であり、できれば組合出身の君に加わってもらえれば有難いと思っている」
と、伝えた。
桜木が、
「組合出身の河辺常務はどうなんですか」
と、訊いてきた。
竹下は返事待ちと言いたかったが、嘘を言ってばれた場合のことを恐れて、正直に、
「実は河辺常務は植木頭取にも谷本専務にも恩があると言って、中立の立場で勘弁してほしいと言って態度保留になっているんだ」
と、苦々しい口調で言葉を返した。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)
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