<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(22)
桜木は、
「植木頭取の病気について私は前立腺肥大と聞いていましたが、前立腺がんと言うのは本当ですか。もし病状が本当に悪いのであれば早いうちに後継者を決めておかないといけませんね。今のところと、植木頭取と杉村副頭取の2名が代表取締役だから問題はないと思いますが」
と、竹下の顔を見ながら訊いた。
竹下は、
「植木頭取と笹川常務は口裏を合わせて前立腺肥大だと言っているが、実際は前立腺がんと言う話だ。体力的な問題もあり手術をしないでホルモン療法による治療をしているが、どうも症状の改善を見られないのではと聞いている。最近役員室に顔を見せることがほとんどなくなっており、時々頭取室に入る姿を拝見することはあるが、直接じかにお話しすることはなくなった。遠くから見るので良くはわからないが顔色が悪いようにお見受けする。植木頭取本人は良くなってきているとおっしゃっているらしいが、病状は改善しているどころか悪化の方向ではないかと思っている。
確かに代表権は植木頭取と杉村副頭取の二人が持っており、いざという事態に陥っても問題はないが、ただ杉村副頭取も胃がんの手術をされて相当期間経過しているものの、最近植木頭取同様に体調がすぐれないとの話が良く聞かれるようになっており、杉村副頭取が頭取に昇格することはまずないと思う。むしろ健康面から言えば、植木頭取より先に退任するのではないかとも言われており、本人もそろそろ現役を引退したいと言っているそうだ」
と、述べた。
一呼吸おいて、
「植木頭取は前立腺がんと診断された当初は頭取交代を考えていたらしいが、最近病状が回復してきたのか、この6月に頭取を退任する意思はないのではないかとの話も出ている。その証拠は谷本専務に対する任期途中の退任要請と言うことになる。しかし、もし杉村副頭取がこの6月に退任し、代表取締役が植木頭取一人となった場合を冷静に考えると、植木頭取本人が大丈夫と思っても病状はどうなるかはわからないと思う。この様な状況のなかで不測の事態が発生した場合、代表取締役が一人しかいないとなれば大変なことになる。
そうであればこの6月に新頭取にバトンタッチしておくことが維新銀行の経営において一番大切なことだと思う。谷本専務を退任させ、1~2年かけて若手の頭取を育てると言うのは非常に危険であると思う。この際順当な人事として銀行内部のこと一番熟知している谷本専務に、頭取職を禅譲することが維新銀行にとってベストの選択だと思う」
と、一気に話した。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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