<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(23)
竹下常務の話をじっと聞いていた桜木は、
「植木頭取が前立腺がんと診断され、その上に杉村副頭取も体調が思わしくない時に、なぜNo.3の谷本専務に頭取職を譲らないで、任期途中の退任を迫ってきたのはどうも腑に落ちないのですが、二人の間に確執と言うか何か我々の知らない深い事情でもあるのですか」
と問い返してきた。
思いもよらない桜木の質問に竹下は、
「深い事情は知らないが、君も知っている通り谷本専務が営業本部長の時、行内外で次の頭取は谷本専務が本命との話が公然と言われるようになって、植木頭取がへそを曲げたのが原因だという者もいるし、また谷本専務が営業本部長時代にノンバンクへの融資を積極的に進めた結果、不良債権を増加させたことが原因と言う者もいる。
実際は二人の当事者ではないのでどのような事情があるのかわからないが、内外ともに厳しい銀行経営において一刻の猶予もないと思う。平時の時ならともかく、この様な多難な時代に後継を育成する時間はないし、むしろ順当な人事を実行することが喫緊の課題と思う」
と述べた。
桜木は、
「谷本専務に任期途中の退任を迫ってきたと言うのは本当なのですか。それともう一つ前立腺肥大でなく前立腺がんということですが、そんな時に今から後継を養成していくなんてあり得ないと思うのですが、既に谷本専務以外に後継を決めているのではないですか」
と問いかけてきた。
桜木の素朴な質問は的を射ていた。竹下は自分がその後継の筆頭であったが、女性問題でその芽がなくなったとは自分の口からは言えなかった。
竹下は、
「確かに桜木取締役の言う通り、谷本専務に退任を迫ったのは、すでに意中の人物を次期頭取に据えることを決めているのかもしれないね」
と、さりげなく話した。
桜木は、
「植木頭取が谷本専務に退任を迫ったのは、次期頭取についてちゃんと考えてのことではないですか。むしろ体調が良くなったといって続投を匂わしているのは、結束力を維持するためであり、次の後継者がやりやすいようにするためではないでしょうか。むしろ電撃的に後継者を決める可能性があるかもしれませんね。そうならば植木頭取にも考えがあってのことだと思われますね」
と、言った。
その後も竹下と桜木との話し合いが続いたが、最後に竹下は、
「谷本専務が退任の要請を受けているが、それを阻止する運動にぜひ賛成してもらいたい」
と、哀願するような口調で話した。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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