<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(25)
谷本は、
「佐藤常務は、任期2年で再任されたばかりなのに、任期途中の退任要請は筋が通らないので反対すると言ってくれてはいるが、実際のところ、なかなか全面的な協力を得るところまではいっていない。それでも僕に対して非常に好意的であるとの印象は持っている。佐藤常務は性格上あまりしつこく頼むとつむじを曲げる可能性があり、むしろこのままで様子を見ることにしたい」
と、答えた。
竹下は、
「そうすると我々は谷本専務と私、それに宮下取締役、城戸取締役、木村取締役、湯原取締役の6名ですね。一方植木頭取の方は、植木頭取と杉村副頭取、笹川常務、広島支店長の森谷賢一郎取締役、東京支店長の塩道太郎取締役、福岡支店長の谷本靖彦取締役の6名で同数となりますが、桜木取締役と佐藤常務が条件付きで谷本専務の任期途中の退任に反対してくれますので優位だと思います。残念ながら河辺常務は中立の立場を崩していませんが」
と述べ、続けて、
「そうすると役員15名中、中立の河辺常務を除き、過半数を超える8名が谷本専務の退任に反対することになりますね。票数は8対6となり、僅かな差ではありますが勝てますね」
と、言った。
谷本は、「確かに数の上ではそうだが、5月の臨時取締役会での決着となると、途中で相手方の巻き返しもあるかもしれない。そこまでは待っておれないので、早速笹川常務を通じて話し合いの場を持つことにしたいが、竹下常務の方で何か意見はありますか」
と、聞いた。
竹下は、
「少なくとも我々6人は同じ考えで結束しています。相手側はまだ我々の動きを知りませんので、恐らく驚くと思います。桜木取締役がいみじくも言ったように、植木頭取が次期頭取候補を内定する前に、笹川常務を通じて交渉しておかないと手遅れになる可能性があると思います。急いで交渉をお願いします」
と言って受話器を置いた。
谷本は竹下常務との電話が終わると、すぐに北九州支店長の桜木に電話を入れた。
「桜木取締役、今日竹下常務から話があったように、笹川常務を通じて退任の要請を受けたが任期途中の交代を求められたので、竹下常務や一部の役員に相談したら、任期途中の退任要請はおかしいといって、退任反対に協力してくれることになった。本人が自発的に退任を申し出るのならわかるが、そうでなければその要請はおかしいと言ってくれている。
それで退任の要請を断ろうと思っているが、ただ自分のわがままではなく、他の役員にも反対者が多いということを伝えないといけないと思って、竹下常務に行ってもらった次第なんだ。決して迷惑をかけることはないと思うが、もし植木頭取がそのまま留任し、私だけが退任になるような事態になった場合は、ぜひ協力をしてほしい。竹下常務から協力しますと言ってもらったとの報告があったので、心強く思っている」
と、話した。
桜木は「はい」と小さな声で答えを返してきた。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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