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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(103)
経済小説
2012年8月17日 07:00

<第六章 谷本頭取の時代>

クーデター未遂事件(35)
 
 植木の家を後にした笹川は自宅の書斎に籠り、植木と打ち合わせしたメモを取り出し、箇条書きにしていった。

1.植木頭取は代表取締役会長に就任する
2.谷本の任期途中の退任要請を撤回し、次期頭取に後継指名する
3.新頭取は植木路線を継承すること
4.代表権は植木会長、谷本次期頭取の2名とする
5.役員の指名権を含む行内の人事権は植木会長。但し、その立案は谷本頭取に委嘱する
6.本件に至る経緯及び其の内容について極秘扱いとし口外しないこと。また双方とも行内融和を図ること
7.個別の問題点はその都度協議するものとする


 笹川は箇条書きした7つの項目を何度も読み返しているうちに、最後の「個別の問題点はその都度協議するものとする」との、文言が気にかかり再度書き直すことにした。
 何度も書き直しては消したがなかなか良い文言が見つからなかった。
 思案しているうちに笹川は、谷本が私闘を仕掛けてきたものであり、許されるものではないと思うようになっていった。決して敗れたわけではなく、巻き返しは十分可能だが、植木が大局的な観点から谷本を頭取に後継指名するのであり、そうであればこの文言は必要ないと思い、全文を削除することにした。
 
syorui.jpg 一方笹川が帰った後、植木は、行内の揉め事が外部に漏れることを懸念して谷本に頭取職を譲ることを決めたが、代表取締役会長に就任後、その権力を維持するためにはどうすればよいかを想い廻らしていた。
 まず対外的には「植木頭取は18年間維新銀行のトップを務めたが、この度筆頭専務の谷本氏を後継の頭取に指名し、自らは代表取締役会長に就任することになった。バブルに染まらない健全経営に徹した植木頭取の経営手腕は高く評価されており、谷本氏もその路線を継承するものと見られる。維新銀行のトップ交代は行内外で順当な人事と好意的に受け止められている。」とのシナリオにすることであった。

 新聞にそのように書かれれば、谷本は植木から禅譲を受けたと世間に見られることになり、谷本は会長となる植木に反旗を翻すことが出来なくなると踏んだ。植木は任期途中の谷本を退任させることに失敗し、一転して頭取に昇格させる事態になったが、形の上では谷本派を取り込むことになり、谷本が仕掛けて来たクーデターを未遂に終わらせることができると考えた末の結論であった。

 植木はたとえ谷本を頭取にしても人事権を握っておれば、谷本の思う通りにはさせない、と心に誓った。後は自分の健康をいかに早く回復させるかであった。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」

▼関連リンク
・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)


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