<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(37)
笹川常務は植木頭取との打ち合わせを終えると、大部屋の役員室に戻らず、その足で応接室に向かった。
笹川は空室となっている応接室に入ると、すぐに首都圏本部へ電話を入れた。
「お早うございます。首都圏本部です」
と女性秘書の明るい声が聞こえて来た。笹川は
「お早う。谷本専務は来ておられますか」
と、訊ねるといつも聞き慣れていることもあり、
「笹川常務さんですね。すぐ専務にお繋ぎします」
との声が返って来た。
受話器の向こうから、
「お早うございます。谷本です。お待たせしました。金曜日はご苦労さんでした。あまりにも早く電話がかかって来たので、正直 なところびっくりしているよ。まあそれはそれとして、何らかの結論が出ましたか」
と、物静かな口調で話しかけて来た。
笹川もエールを返すように穏やかな声で、
「先日は大変失礼を致しました。早速植木頭取に相談しましたところ一応の結論が出ましたので、再度上京してその話の内容をお伝えしようかと思いますが、ご都合の方は如何ですか。決して悪い話を持っていくようなことはないのでご安心下さい」
と告げると、電話の向こうからスケジュール表をめくる音が聞こえた。
程なくして谷本から、
「明日は終日日程が詰まっているが、明後日18日の午後は空いている。笹川常務の都合はどうですか」
と、温和な声を返してきた。
笹川は、
「18日の水曜日ですね。それでは先日と同じように午後2時頃に、そちらの方へお伺いしますので宜しくお願いします」
と伝えた。
谷本は、
「笹川常務、何度も足を運ばせてすまんね。まあ一つ宜しく頼みますよ。朗報を楽しみにしています」
と、弾むような声を返して来た。
笹川は谷本への電話を終えて応接室を出ると、再び頭取室に向かった。ノックをしながら室内に入ると植木は電話中であった。
笹川は、
「失礼しました」
と慌てて引き下がろうとしたが、植木は応接室の方に手を差し示し、座って待つよう目で合図をした。やがて電話を終えた植木は、
「谷本君とはいつ会うことになったかね」
と、笹川の顔を見ながら聞いた。
笹川は
「明後日18日の午後に会うことにしました」
と答えた。
「谷本君の反応はどうだったかね」
植木が聞くと、笹川は即座に、
「まさかこんなに早く連絡があるとは思ってなかったので、びっくりしたと言っていました。そして朗報を楽しみにしていますと、妙にこちらの対応を見透かしたような口振りでした」
と答えた。
植木は
「笹川常務、僕は引退するのではなく会長となって采配を振るうので、何も心配することはないよ。かえって谷本君の方が頭取になったら苦労すると思うよ」
と言った。笹川は
「何か補足するようなことはございませんか」
と訊ねたが、
「うん、もうこれ以上特にないね。それじゃ明後日谷本君と会って話をして来て下さい。それじゃ宜しく頼むよ」
と言って、執務室に戻っていった。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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