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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(106)
経済小説
2012年8月22日 07:00

<第六章 谷本頭取の時代>

クーデター未遂事件(38)
 
 3月18日、海峡市は前日の晴天が嘘のように、朝から小雨が降る生憎の肌寒い天気となった。笹川は前回と同様福岡空港から飛行機で東京に向かった。その日東京も朝方から小雪が舞い、最低気温は1.7度と真冬並みの寒さに逆戻りした空模様となった。

asimoto.jpg 笹川常務が羽田に着いた午後には雪は止み小雨に変わったが、最高気温は7.2度までしか上がらず、コートとマフラーが手放せない一日となった。
 朝方の雪の影響もあり飛行機の到着は少し遅れたが、笹川は約束通り、午後2時前に首都圏本部に到着し、早速谷本と二人で応接室に入った。谷本は
 「朝方からの雪で、羽田は大分混乱していると聞いて心配していたが、時間通りの到着お疲れでした」
 と、声を掛けた。
 笹川は、
 「ご心配有難うございます。海峡市も昨晩から雨模様で寒かったですね。明後日20日が春分の日と言うのに今年はなかなか温かくなりませんね」
 と、お互いが気を遣う和やかな会話からスタートした。一通りの会話が終ると谷本が口火を切った。
 「まさか、こんなに早く返事が返って来ると思ってもみなかったんで、本当にびっくりしているよ。いい返事と聞いて安心していいのかね」
 と、にこやかな顔で笹川に声を掛けて来た。

 笹川は箇条書きしたメモを内ポケットから取り出したが目をやることなく、
 「植木頭取は代表取締役会長に就任し、その後任の頭取に谷本専務になって頂きます」と言うと、谷本は嬉しさをかみ殺し、
 「笹川常務のお陰の賜物です。有難うございます」
 と、神妙な態度で笹川に深く礼をした。

 笹川は、
 「とんでもないです。今までの谷本専務の功績を評価した上で、植木頭取がお決めになったことですので、植木路線を継承して頂くことになります。それから代表権の件ですが、会長と頭取の2名が持つことになります」
 と話すと、すかさず谷本が、
 「今は植木頭取と杉村副頭取の2名だが、そうすると杉村副頭取は退任をされるのかね」と、さも残念そうな顔をして訊いてきた。

 笹川は、
 「杉村副頭取はどうも体調が思わしくなく、今期限りで退任したいとの本人からの強い申し出があり、植木頭取が慰留しましたが、どうしてもとのことでご退任することになりました」
 と話した。続けて笹川は
 「人事権については絹田会長の時と同じように、植木会長がお持ちになります。その辺についてはご了解願います」
 と、きっぱりした口調で話した。
 笹川は話した内容に漏れがないかメモを見返えし、
 「そうそう最後に大事なことを言い忘れていました。ここに至る過程で役員間同士の揉め事があったことについては一切口外しないこと。円満に頭取交代がなされること。お互い過去のしがらみは水に流して維新銀行の将来のために一致団結すること、この三点について植木頭取から特に要望がありました。これで全てお話ししましたが、谷本専務の方で何かご意見はございませんか。如何でしょうか。この案でご了承頂けるでしょうか」
 と、谷本からの返事を静かに待つ姿勢をとった。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」


▼関連リンク
・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)


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