<視線の先には太平洋>
2月24日にも中国海洋監視船4隻が、日本領海内の尖閣諸島沖を航行するなど、中国公船による領海侵犯が続いている。同21日には、中国側が尖閣諸島の周辺海域に調査用の特殊なブイを設置していることがわかった。この特殊な海上ブイは、排他的経済水域の日本側にあり、1994年に発効した国連海洋法条約に違反する。
中国の安全保障問題に詳しい慶応義塾大学の安田淳教授は、「あらゆる手法を使ってくる。しつこく公船が来るなどの状態は、10~20年続くことを覚悟しなければならない。ただ、尖閣諸島を奪取しようとしているとは思えない。中国の目は、もっと先に行っている。エネルギー戦略、海洋戦略を推進するために、すでに太平洋に出ることを考えている」と、内海である東シナ海よりも、その視線の先にあるのは太平洋であるという。中国は、尖閣諸島沖に海洋資源があるとわかったことで領有権を主張し始めたが、すでに、東シナ海の平湖ガス油田、および周辺のガス田での資源開発、生産に着手している。日本は、東シナ海におけるガス田開発とその対応に後手を踏んだ。
ただ、国内的な目もあり、尖閣諸島を放棄するわけではない。「共同開発を持ちかけるなど弱いところを見せるとそこに付け込んで来る。日本的な思いやりの行為が通用する相手ではない。いたずらに刺激せず、付け入る隙を与えないという毅然とした態度が求められる」(安田教授)。粘り強い交渉が必要になってくる。
<尖閣よりも「沖ノ鳥島」>
海洋覇権をうかがう中国の次の標的となっているのが、東京から約1,740km南にある日本最南端の沖ノ鳥島。ここを基点に、日本は排他的経済水域を設定している。この沖ノ鳥島の周辺海域に、メタンハイドレードやレアアースなど希少な海洋資源が存在すると言われている。中国にとっては、日本が排他的経済水域を獲得する要衝となっている沖ノ鳥島が邪魔な存在で、04年から沖ノ鳥島を、排他的経済水域の設定できない「岩」だという論を展開し始めた。
安田教授は「メタンハイドレードなどが埋まっている資源的な魅力もそうだが、沖ノ鳥島の排他的経済水域がなければ、中国は軍事的にもこの海域を自由に行動できる。中国にとって、この周辺海域はアメリカに対するパワーを発揮する場所。日本は、この沖ノ鳥島を『守る』という作業をすることが重要」と、早めに手を打つことが必要だ。隣国、周辺国の非難を差し置いて国益獲得に向かう対中国の交渉において、幻想や相手への期待を抱かないタフなネゴシエーターとならなければならない。
<プロフィール>
安田 淳(やすだ じゅん)
慶応義塾大学法学部教授。専門分野は、国際関係論。専攻領域は、現代中国の安全保障、軍事。1983年、慶応義塾大学法学部卒業。89年、慶応義塾大学法学部博士課程単位取得退学。防衛庁防衛研究所、防衛庁教官を経て、99年に慶応義塾大学助教授。05年より現職。
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