スイゼンジノリは日本固有のラン藻類で、江戸時代から高級食材として珍重された。もとは熊本県や久留米市の川にも自生していたが、環境の変化により、現在は朝倉市の2業者が養殖する黄金川でしか自生できない。環境省のレッドリストで最も絶滅の恐れが強いグループに分類されている。黄金川での収穫量は最盛期に年間約200トンあったが、現在は約20トン。企業努力ではどうしようもできない限界を迎えている。これまでどうにかしのいできたが、10月10日に従業員9名を全員解雇し、その後の生き残り策を考えている。「自治体、民間業者に協力を要請したい」と話す遠藤金川堂17代目遠藤淳氏に聞いた。
<学びの場でもある>
黄金川の近隣には金川小学校があり、総合学習のテーマとして自然環境、歴史を学ぶため児童が毎年訪れている。同社では水辺の生き物を観察させながら、世界にここだけしか存在しないスイゼンジノリを伝えている。学校給食でも献立にスイゼンジノリが組み込まれるなど、郷土を知る、郷土を守る役目を果たしている。体験を終えた小学生から手紙や俳句などが届く。子どもたちにとっても、貴重な学びのチャンスである。
<注目される物質「サクラン」>
食用以外にもスイゼンジノリには注目される点がある。スイゼンジノリから抽出した新物質「サクラン」だ。最近の研究で、医薬品、化粧品や工業用へも可能性が広がっている。サクラン1グラムで水を6リットル吸着できるほどの高い保水性を持つ。保水性で有名なヒアルロン酸を数倍上回る。またレアアースを吸着する性質を持っていることが証明され、今後の研究により工業化が進められている。スイゼンジノリが大量生産できれば、研究はさらに進むのだが、現在自生しているのはこの黄金川だけなのである。
<自治体と企業から>
決定的な打開策はまだ見つかっていない。地元の議員にも相談し、今後の可能性を模索している。そんな中、10月3日、初めて朝倉市長が視察に来ることになった。度重なる要望、8月に提出した署名がようやく実を結んだ。「おそらくこれが市へのアピールのラストチャンス」と遠藤氏は危機感を募らせる。同時に「少しでも関心を示してくれる企業があれば、一度だけでもぜひ実情を見てほしい」と自治体と企業からの支援を要請している。
遠藤氏は今も毎日、川の清掃活動を行なっている。今後も川とスイゼンジノリを守っていくためだ。夏にはホタルも飛び交う黄金川は養殖業者だけでなく、市民の財産である。小学生が同社に贈った短歌にはこうある。「人間は スイゼンジノリを 作れない 人の力で 守ろうね」
≪ (前) |
<COMPANY INFORMATION>
合資会社 川茸元祖 遠藤金川堂
所在地:福岡県朝倉市屋永2949
TEL:0946-22-2715
FAX:0946-22-0707
URL:http://kawatake-endo.com/
※記事へのご意見はこちら