2024年05月22日( 水 )

東ヨーロッパには何があるのだろう(9)

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ゲディミナス城の塔、ここにもまた戦乱の歴史が…

 12世紀に建国の父・大公ゲディミナスは、この地に狩りに来て道に迷い、野営の夜に、鉄の鎧を着たたくさんの狼が咆哮する夢を見た。この夢のお告げにより、トゥラカイからヴィリュニスに遷都を決める。鉄の鎧を着た狼というのは、何ともはや“覇王”のイメージではないか。
 建てられたその城は、日本の中世の山城と同じで、湿地と森に囲まれた防御力重視の構造だ。当初は木造の砦だったが、14世紀頃にレンガ造りに建て替えられたという。

城下から城を見る<

城下から城を見る

塔のてっぺんにはリトアニア国旗が翻る<

塔のてっぺんにはリトアニア国旗が翻る

 「ヴィリュニス」には「波」という意味がある。それが、この街の名前の由来だという。ネリス川とヴィリニャ川。7つの丘を縫うように2つの川が流れる街、それがヴィリュニスだ。
 バルト三国には、山らしい山がない。ここリトアニアも、もちろん同じだ。一番高いところで292m。山と言うより、丘と言った方がいい。そのため城は、中州か丘の上につくる。だが、前者は水攻め、後者は兵糧攻めに弱い。だから最後は、平地に城をつくる。日本で言う「平城(ひらじろ)」だ。日本では城郭を石垣と堀で囲み、その外に城下をつくった。普通、住民は城のなかにはいない。戦が始まると、徴兵されている者以外はとりあえず逃げるのだ。
 戦の始まる前に現れるのが、謎の旅人だ。旅人は言う、「明日、徳川が攻めてくる」。そして旅人の情報通り、翌日には葵の旗指物、馬印がやって来る。戦が始まると、領民は安全なところに逃げる。今のアラブにも、似たようなことがあるという。

 しかし、ここ大陸の国は違う。城郭をつくり、そこに兵も民も塀のなかにこもる。何しろ、やって来るのは異民族。下手すると、皆殺しに会う。この地域の近隣には、バイキングからモンゴルの子孫まで、あらゆるところから敵がやって来たのだ。ただひたすら城にこもり、時に打って出て戦う。籠城は、攻める側にも少なくない被害をもたらす。だから敵の城を陥落させたら、それを徹底的に破壊する。ここがまた、我が祖国とはいささか手法が違う。

 大公がつくったこのゲディミナスの城もまた、時代とともに幾多の戦乱を経て19世紀に帝政ロシアによって徹底的に破壊された。今は、ほとんど基礎部分しか残っていない。
 その後、1930年に、塔の部分だけが再建された。さらにその後、ソ連に併合され、1990年3月11日に再独立する。
 3階建ての赤レンガの塔。その頂には、ソ連からの独立を象徴するように、リトアニア国旗が翻る。

徒歩でもケーブルカーでも登ることができるゲディミナスの塔<

徒歩でもケーブルカーでも登ることができるゲディミナスの塔

ロシアの破壊からかろうじて残った基礎部分から街を見下ろすと、眼下にヴィリニャ川とネリス川も見える<

ロシアの破壊からかろうじて残った基礎部分から街を見下ろすと、眼下にヴィリニャ川とネリス川も見える

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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