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2017年01月06日 14:49

変容する中国・上海レポート(前)~「夏目漱石没後百周年記念シンポジウム」開催

 2016年8月末時点で中国に進出している企業は1万3,934社になり、15年6月と比較して678社増加した(帝国データバンク調べ)。16年に来日した中国人観光客は600万人を突破。昨年より100万人増加して、訪日外国人の最高記録を達成した。しかし一方で、訪中する日本人観光客は減り続けている。これは少し歪(いびつ)な関係である。双方理解の第1歩は、お互いに興味を持ち、実際に現地に行ってありのままの姿を見ることである。
 記者は昨年12月上旬、復旦大学で開催された「夏目漱石没後百周年記念シンポジウム」に参加するため訪中した。数年ぶりの上海滞在だった。そこで目にしたものは上海、そして中国の大きな変容である。

文章の行間から流れ出てくる儒教思想

 2016年は夏目漱石の没後100周年、17年は生誕150周年に当たる。これを記念して、仙台や東京、鎌倉、和歌山、松山、熊本など日本各地で、10を超えるさまざまなイベントが行われている。

 だが、実は漱石の作品は日本だけでなく、中国の読者にとっても親近感が持たれている。
 その理由は、漱石の作品には中国の漢詩や漢文の表現が多く見て取れ、また文章の行間から儒教思想が流れ出てくるからだ。漱石の作品は、他に例を見ないほど東洋思想(漢文・漢詩)と西洋思想(イギリス留学・英文学)が見事に融合している。

 漱石は幼少期から漢文学に特別な興味を持っており、唐朝および宋朝の詩歌と史書を通読していた。1881(明治14)年に東京第一中学校を退学した後には、漢学塾「二松学舎」(現・二松学舎大学)に入学し、1年間勉強している。雅号「漱石」(本名は夏目金之助)が中国の古典『晋書・孫楚伝』に由来しているのは、有名な話である。

発表者も質問者も皆、流暢な日本語で

c 昨年12月11日(日)に、中国を代表する名門・復旦大学の文科楼220会議室で、夏目漱石没後百周年記念シンポジウム「漱石を読み直す(1916‐2016)」(主催:復旦大学外文学院、後援:中国日本語教育研究会上海分会、華東理工大学出版社)が開催された。
 会場には、大学の先生、研究者、復旦大学を含む上海市内の大学生など約70名が参集。当日は、朝9時から夕方6時頃まで、昼食休憩を除いて、発表や議論がみっちり行われた。
 一番驚いたのは、発表者だけでなく、参加者からの質問も、すべて流暢な日本語だったことである。

 当日の発表者は、日本側は千葉俊二先生(早稲田大学)、徳永光展先生(福岡工業大学)、曽我一正先生(日本中部大学)、山本幸正先生(西安外事学院)。中国側は王成先生(清華大学)、王志松先生(北京師範大学)、劉暁芳先生(同済大学)、梅定娥先生(南京郵電大学)、鄒波先生(復旦大学)であった。このほかに、会場には貴州大学や延辺大学、厦門大学など、多くの大学の先生が参加されていた。

現代作家の多くは、外国文学の素養がない

 冒頭、復旦大学外文学院学術委員会主席・褚孝泉教授は、次のように開会挨拶をした。

 「復旦大学でこのような意義のあるシンポジウムが開催できて、とても嬉しく思います。夏目漱石の日本文学史における重要さは言うまでもありませんが、中国近代文学史においても、漱石は大きな影響をおよぼしています。漱石が文学史で大きな影響を残せた背景には、漢詩・漢文学の素養があったこと、英国に留学・英文学の素養があったことが大きいと考えています。中国の近代文学史を遡りますと、活躍された作家の多くは、同じように少なくとも1つぐらいは、外国語の素養を身につけていました。しかし、現代作家の多くに外国文学の素養がないことが、今、研究者、識者に指摘されています。外国文学を翻訳だけで読んでいると、東西文学をしっかり理解していくうえでデメリットになると思われるからです。その意味でも、このシンポジウムに大きな期待をしています」。

満鉄の広報文書の役割を果たしていた?

china 続いて、中国日本文学研究会会長・譚晶華教授の挨拶があり、千葉俊二早稲田大学教授の基調講演「文学史のなかの漱石文学」(日本近代文学館で行われた「漱石‐絵はがきの小宇宙」展覧会など、現在日本で行われている夏目漱石没後百周年関連イベントなどが披露された)が行われた。
 その後の8人の先生方の発表は、それぞれが漱石の作品を「哲学」「明治精神」「明治期の民法(家族制度など)」「満鉄」「英訳」「満州国」「音(聞く)」「書物・写真・絵画」など独自の観点から分析しており、興味深かった。

 清華大学の王成教授は、日本でも評価が分かれる作品『満韓ところどころ』に言及。近年見つかった新しい資料を含めて、読み直す必要があると述べた。
 この作品をめぐる読みの揺れは、新聞連載の中断(休載)によって「漱石は書きたいことを書けなかったのではないか」という憶測から生じている。今回の発表では、近年見つかった新しい資料および漱石の親友だった満鉄総裁・中村是公に注目している。そして、満州・朝鮮への旅行が中村是公の招待だった可能性があることから、「『満韓ところどころ』は当時の満鉄(帝国主義・植民地政策)の広報文書の役割を果たしていたのではないか?」と疑問を投げかけた。

 8人の先生方の発表後は、終了時間ギリギリまで真剣な議論が行われ、中国日本文学研究会常務副会長である李征教授の閉会挨拶で幕を閉じた。

(つづく)
【金木 亮憲】

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