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2017年04月20日 07:02

トランプ・習近平首脳会談の裏で加熱する種子争奪戦争(後)

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 要はアメリカの軍事戦略に食糧農業政策が完全に飲み込まれているわけである。その中で特に重要な役割を担っているのがアメリカのGM種子というわけだ。遅かれ早かれこうしたアメリカの食糧軍事一体化戦略が広がれば、世界の穀物市場はアメリカの思うように牛耳られることになりかねない。オバマ政権下でスタートしたソフトパワー戦略であるが、トランプ大統領も引き継ぐ意向を示しており、日本としても注目する必要があるだろう。なぜなら、こうしたアメリカ製GM種子はイラク、アフガニスタンに留まらず世界中に売り込まれているからで、日本もその例外ではないからだ。

 こうしたアメリカの官民一体した種子戦争に対して反旗を翻そうとしているのが中国である。4月6日、7日の両日にわたってフロリダで開催された米中首脳会談はトランプ大統領によるシリアへのミサイル攻撃によって、これといった成果の打ち出せないまま終わった。しかし、初顔合わせとなった習近平主席とトランプ大統領の間では水面下でさまざまなテーマについて意見を戦わせたようである。北朝鮮問題は当然のことながら、米中間の経済貿易上の不均衡問題も議論の遡上に上った。

 実は、トランプ大統領を悩ます新たな種が蒔かれていた。それこそ「種子戦争の種」に他ならなかった。何かと言えば、米中首脳会談の直前、中国の国営企業である中国化工集団(ケムチャイナ)がアメリカのモンサントと並ぶ世界最大の種子メーカーであるスイスのシンジェンタの買収を発表したことである。この買収劇は中国企業による外国企業をターゲットにしたものとしては過去最大のもので、430億ドルという。

 手続きが完了するのは2017年の第2四半期になりそうだが、昨年2月から交渉が極秘裏に進められてきた模様だ。ケムチャイナは中国化学産業省の傘下にある国営企業で、「フォーチュン500」のランクでは234位に入っている世界的な大企業である。全世界150カ国に研究開発と製造販売の拠点を有する。従業員数は15万人。

 最終的な買収が認められるかどうかは、中国、インド、メキシコの政府機関に加え、アメリカの国務省、国防総省、商務省など主要政府機関16カ所が独禁法や国家安全保障の観点から審査を行ってからのこと。とはいえ、シンジェンタのマイケル・デマレ会長は「従業員、顧客、地域経済にとって最善の結果をもたらす」と買収効果をアピール。「各国の承認は間違いない」と自信を示している。

 実際、シンジェンタの株価は昨年から20%以上の値上がりを見せている。しかし、トランプ大統領とすれば世界に広がる種子戦争において中国の後塵を拝することにもなりかねないため、買収阻止に動く可能性も否定できない。

 フロリダでの米中首脳会談の隠された対立点こそが、この種子を巡る駆け引きであった。シリアへのミサイル攻撃は「トランプ大統領の強い意志の表れ」と受け止められているが、シリアを巡る争いには別の要素が隠されていることは知られていない。これこそが、種子戦争である。アサド政権が存続するにせよ、首のすげ替えがなされるにせよ、治安回復と社会の安定発展には食糧の確保が最優先課題となる。

 2012年からシリアの土壌に適した穀物や野菜の種がノルウェーのスバルバードに建設されている種子保存センターに送られている。これは戦争が終結した際、速やかに農業を再生させるためにシリアの土地に適した種子を保存しようとする国際プロジェクトであった。

 かつてシリアのアレッポに活動拠点を持っていた国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)の事務局長アリ・アボウサバ氏の発案である。同国の農業大臣ジョン・デール氏も「シリアの復興に欠かせない資源だ」と言う。戦時下においてはシリアの種子保存施設はすべて破壊されてしまった。また、研究員も海外に脱出を余儀なくされている。戦争前には13万5,000種類の小麦、大麦、豆類の種子が保存、管理されていた。それらが相次ぐ空爆や戦火の影響で失われつつある。そのため、戦争が終結したとしても、シリアの土着の食糧をどこまで復活させることができるのか、大いに疑問である。

 そうした状況を想定し、モンサントやシンジェンタでは遺伝子組み換え種子の提供のチャンスをうかがっているわけだ。戦争で大儲けを狙うのは軍需産業だけではない。こうした種子産業も密かに好機到来を待っているのである。シリアにおいても新たな市場参入を目指す中国と先行してきたアメリカとの市場争奪戦が始まったといえるだろう。

 しかも、アメリカの稼ぎ頭であったモンサントはドイツのバイエルンに2017年内に660億円で買収される見通しだ。残る大手のデュポンとダウ・ケミカルは年末を目途に合併するという。地上での戦火が激しくなる一方で、種子マーケットにおける陣地獲り合戦もし烈さを増す一方である。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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