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2017年04月19日 07:02

トランプ・習近平首脳会談の裏で加熱する種子争奪戦争(中)

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 アメリカもヨーロッパ各国政府もアフガニスタンにおいて、自国に有利な新たな種子産業を育成しようと深慮遠謀を企てているに違いない。最終的にアメリカが勝利を収め、外国の企業やアグリビジネスに門戸が開放される際に、最も有利な条件でこの新興市場を押さえようと目論んでいるようだ。

 その目的を達成するため、アメリカ政府はわざわざ法律の改正まで行い、アフガニスタンの農民たちが自分たちの種を保存し、次の年に植え付けることができないようにしたのである。2008年10月、世界食糧機構が音頭をとり、アフガニスタンの首都カブールでは「アフガニスタン全国種子協会」がお目見えした。まさにアメリカの目指す、自国製の種子をアフガニスタンで長期にわたり広めようとする計画の本格的スタートである。

 その一方で、アメリカ軍に抵抗するタリバンの勢力も自らが開発した種子を農民たちに提供することで信頼を得ようと躍起になっている。要は米軍が提供する種子とタリバンが提供する種子の間で熾烈な市場争奪戦争が展開されているわけだ。とは言え、いずれの種子も無料ではない。確かに当初は無償で配られるが、長い目で見ればどちらの種子にも毒が盛り込まれているようなもの。米軍とタリバン勢力との「出口の見えない戦争」に翻弄され続けているアフガニスタンの国民や農民たちにとって、この種子戦争という新たな戦場で、どちらの側に立つのか厳しい選択を迫られているといえよう。

 イラクにおける情勢も極めて似通っている。イラクは「文明のゆりかご」と呼ばれるほどで農業に関しても数千年の長い歴史を誇ってきた。しかし、イラク戦争が終わり米軍による占領統治が続く中で、今やイラクはアメリカの小麦や米産業にとっては最大のお得意先となっている。アメリカ政府はイラクを占領することにより、石油だけではなく巨大な市場を手に入れたと言っても過言ではない。15億ドルに達する食糧マーケットがアメリカの企業に開放されたからである。

 短期間でイラクの農業や食糧流通システムはアメリカに全面的に依存するようになってしまった。米軍はかつてカーギルの役員であったアムスタッズ氏を引き抜き、米軍の対イラク農業支援事業の責任者に据えた。アフガニスタンで行ったのと同じように米軍はイラクにおいても同国の法律を改正させ、アメリカからの輸入品、特に食糧に関してアメリカ依存を強める政策を徹底的に実行したのである。

 その結果、イラクにおいては自前の農業生産や食糧ビジネスはほぼ壊滅状態に陥ってしまった。そうした上で、米軍はアメリカ産の種子を積極的に広めているわけだ。本来イラクの農民たちが豊かな土壌や長い農業経験に基づき大切に伝承してきた種子を全て捨てさせたのである。イラクにとっては小麦は最大の食糧源であったが、今ではアメリカの種子メーカーが提供する種子やアメリカの穀物会社から必要な小麦やトウモロコシなどを大量に輸入せざるを得ない状況に立ち至っている。

 アメリカ政府は2006年以降、3億4,300万ドルを投入し、イラクに対する二つの新たな農業支援策を開始した。一つは「アグリビジネス育成計画」。もう一つは「民間セクター育成並びに雇用増進計画」である。いずれもUSAIDが始めたものだが、実際に日々の業務を推進するのはアメリカのルイス・バーガー・グループ。同社は世界最大規模を誇るインフラ整備や開発を専門とするコンサル会社である。

 これら二つのプログラムを通じてイラクにおける新たな食糧産業に対する投資を加速させようと考えているようだ。しかも注目すべき動きは、こうした農業や職業訓練の計画がすべて軍事作戦の中に組み込まれていることである。アメリカ政府はイラク復興支援の名目で2億5,000万ドルの予算を計上し、580を超える農業関連プロジェクトを展開している。問題はこれらのプロジェクトの97%以上が現地の米軍司令本部によって決済が行われていることであろう。表向きは農業支援を通じての復興事業とされているが、実際に資金の流れやプロジェクトの進行状況を確認する立場にあるのは米軍なのである。

 オバマ前大統領は選挙中の公約として、「大統領就任以降、16カ月以内に米軍をイラクから撤退させる」と述べていた。しかし、国防総省では米軍の任務を農業支援にすり替えることで、この公約を骨抜きにする工作を実行しているのである。すでに国防総省では2011年以降もイラクには7万人を超える米兵を駐留させる新たな計画を作成し、今日に到っている。とは言え、これらの米軍は農業関連計画に従事することになっているのである。非軍事的な目的を遂行するとのカモフラージュによって米軍の長期的な駐留を可能にしようというわけだ。新たに誕生したトランプ政権下でも、そうした米軍の農業支援計画への関与を大枠で認めているという。

 これこそ米軍の新たな海外戦略のソフトパワー化と言えよう。アメリカ政府は外交官やUSAIDの援助専門家を海外に多数派遣しているが、そうした人員にかかる費用より30倍以上もの資金を軍事目的に費やしている。しかも巧妙なカモフラージュにより、国防総省自体がアメリカの海外援助の20%以上をコントロールするまでになっている。すでにUSAIDの中には軍事調整部門ができている。その主たる目的は国防総省との意見調整である。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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