2024年04月23日( 火 )

世界で加熱する新技術開発競争(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 そうした傾向を踏まえ、カナダのウォーター・ミルに負けてはならじと、アメリカのエックス・ジエックス社も空気から飲料水を造る機械を完成させ、市場に売り出すことになった。1ガロンの水を作るのに10セントの電気代がかかるが、この機械も空気中の汚れやほこりをフィルターで除去し、浄化処置をした後に飲み水に変えることができるという。

 「あらゆる種類の空気から水を作り出し純粋で安全な水を生み出す」というのがうたい文句になっている。このエックス・ジエックスの販売戦略は一般の水道水が生物化学テロに襲われるといった非常事態を想定したものに他ならない。水道水が安全とはいえ、その水源地に有害物質が投入されたり、地震や災害で水道管が破裂するようなケースを想定し、空気中から必要な飲料水を確保しようという危機管理の発想である。こうした危機管理の観点から「空気中の水蒸気を活用する水製造機」は将来的には必要な生命維持装置として社会的な認知を受けることになるかも知れない。

 一方、アメリカやカナダに対抗するかのように、ドイツの研究機関においても空気中の水蒸気を利用した造水機の実用化が進みつつある。シュツットガルトにある「IGB」と呼ばれるバイオテクノロジーの研究所では「ラゴス・イノベーション」と呼ばれる民間企業と提携し、自動的に空気中から飲料水を生み出すメカニズムを開発した。

 砂漠地帯など乾燥地においても空気中から飲料水を確保することができるため、その実用化が期待されている。湖や川、あるいは地下水や水源地がまったくない場所であっても、この機械は水を生み出すことができる。IGBではすでにイスラエルのネゲブ砂漠で実験を繰り返している。この砂漠地帯では大気中の湿度が年平均して64%であるため、1平方メートル四方の空間から11.5ミリリットルの水を安定的に確保できるという。

 「必要は発明の母」というが、今や世界各国で水不足を克服するための新たな発明の競争が始まっている。インドシナ半島やサブサハラなどアフリカ大陸においても水資源をめぐる争いは激化の一途をたどっている。海水を淡水化する、あるいは汚染された水を浄化し再利用するといったこれまでの造水技術とは全く発想が異なるアプローチが注目を集めている。地球上のあらゆる場所に公平かつ潤沢に存在する空気。この無限の資源から水を造りだすという開発レースが始まったのである。水の豊かな日本においては、これまで思いつかなかったアイディアと言えるかもしれない。

 しかし、考えようによっては、これほど確実な水源地の確保につながる技術もないだろう。日本は海水の淡水化を可能にする膜技術では世界をリードしているものの、既存の技術の上に胡坐をかいていれば、こうした新しい技術革新の波に乗り遅れることにもなりかねない。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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