2024年04月20日( 土 )

福岡市立A中学校、異常に難しい定期テストの裏事情~高校入試にも影響(前)

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 記者の手元に、福岡市立A中学校2年生の2学期中間テスト(今年度)で出された数学の問題用紙がある。情報提供者の特定を避けるために画像は載せないが、大量の問題数と後半に繰り出される難問の連続に、文系脳が熱を持ったような感じだ。

 この問題を見て、市内某塾で数学を教えるB講師は語る。
 「公立中2年生の2学期に出される問題としては、難易度、分量ともに少なくとも九州では最高峰でしょう。前半で時間を使いすぎて最後までたどりつけなかった子が多かったのでは。後半のいくつかの問題は、有名私立中学の定期テストで出されてもおかしくないレベルです。子どもたちの数学力を福岡市内平均レベルだと仮定しても、授業と学校から与えられたワーク(問題集)をやっているだけでは、半分解けるのがいいところだと思います」。さらに、「このテストで高得点を狙うなら、塾通いが必須」とも指摘する。
 そんな事情を反映してか、A中学校の周辺にはなんと「A中学校の定期テスト対策専門」の塾が存在する。テスト対策は実践的、さらに徹底的だ。卒業生から過去の定期試験問題を集め、さらに作問担当が予想される教師を割り出し、教師別の予想問題まで作成して徹底的に覚えこませるという。「なにもそこまで……」と言いたくもなるが、高校受験において「内申点」が合否の重要な要素を占める福岡県においては、定期テストの結果は生徒とそして親たちにとってまさに死活問題なのだ。

 しかしそこまでやっても、この数学の試験で満点は出なかった。A中学校には、灘高校(神戸市)やラ・サール高校(鹿児島市)などへの高い進学実績で知られる大手進学塾の最上位クラスに通う生徒が多数在籍するという。その鍛えられた受験エリートをもってして満点をとれないテストだったということだが、はたしてこれが公立中学校のあるべき姿なのか。もちろん、事の本質は逆なのだろう。学力トップ層が多く在籍する中学校だからこそ、凡庸な内容のテストでは満点が続出してしまう。学校からすれば生徒を評価するために「全員100点」のテストでは意味がなく、なんとしても差をつけなければならない。

 しかし、苦心して試験問題をひねり出しているであろう教師たちの頭のほんの片隅にでも、「落ちこぼれ」たちの姿があっただろうか。いくら生徒のレベルが高いとはいえ、しょせん公立中学校なのだ。小学校課程の算数ですでに躓いた子どもたちもいれば、そもそも高いレベルの高校に進むつもりのない子もいる。ちょっと脇道にそれた子、障害を持った子など、さまざまな事情を持った生徒が在籍するのが公立中学校であり、「多様性」こそが私立にない良さでもある。一部の生徒にとって「ちんぷんかんぷん」な問題を出題することは、そういった多様性をないがしろにする行為にも思えるのだが。
 A中学校卒業生の6人に1人が県立名門校のS高校に進学し、全国最難関の灘高校に複数名合格する年もあるという。そういった実績を受けて「県内で一番レベルが高い公立中」と噂されるA中学校だが、じつは各教科の点数が一桁代の子どもも少なくない割合で存在する。もし「できない子」を無視し、切り捨てるのがA中学校の実態だとすれば、それは「歪んだ公教育」といえないだろうか。

(つづく)
【NetIB-News編集部】

 
(中)

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