2024年04月25日( 木 )

耐震性に疑問、豊洲市場の黙殺された致命的な問題(6)

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協同組合建築構造調査機構 理事長 仲盛 昭二 氏

建築界・行政は、反省し、正常な建築確認制度の運用を目指すべき

 豊洲市場に関していえば、東京都としては、豊洲への市場移転は、あと戻りできない決定事項であることは間違いありません。今さら、「設計に不正があった」「安全性に問題がある」と言われても、市場移転を白紙に戻すことができないものと思われます。だからこそ、移転をする前に構造上の問題を解決しておかなければならないのです。構造の安全を確認できないことにより、移転後に豊洲市場が使用できなくなれば、市場関係者は、築地市場にも戻れず、行き場を失います。都民への食材の供給もストップし、大混乱になります。だからこそ、設計事務所や東京都の面子など関係なく、移転前に、構造上の問題点(不足している耐震強度)を解決しておかなければならないのです。

 日本人には、「お上が間違ったことをしたり、言うはずがない」と盲信している方が多いようです。長い年月をかけて、巧妙に飼い慣らされてきたのです。市場問題PTのある委員も、「東京都や日建設計が、構造計算に問題はないと言っているのだから、問題ないのだろう」という見解を述べられていました。しかし、東京都は、建築基準法施行令や学会規準を逸脱した設計を見逃して、計画通知を交付しているのです。
 私は、以前、豊洲市場の不正な設計に関して、東京都小池知事、日建設計亀井社長、市場問題PTの森高委員(JSCA会長)に質問状を送付しましたが、回答は返ってきませんでした。そして、データ・マックスの取材に対しては、日建設計だけが、前述のような不誠実な回答を行ったのです。東京都は、自らの審査ミスを認識しているがゆえに、質問に対して何も回答をすることができないのです。

 行政や大手設計事務所の保身のために、PT委員全員が根拠も示さずに「イエス」と言う、そんな構図は絶対に間違っています。PTは、単に、都民の目を欺くための儀式に過ぎないのか? PT出席者の中にも、設計に関する疑義を唱えた方もいたと信じたいのですが、いつの間にか意見を封じられたのではないでしょうか。儀式的なPTにも都民の税金は使われているのです。

 日本においては、行政や特定の業界に関する問題が生じた場合、秩序や業界の利益、官僚の地位保全を優先する方向で解決(本来の解決になっていないが)してきました。最近の自動車の検査の問題や鉄鋼メーカーの偽装なども、厳格に法を適用すれば大混乱します。業界には、多くの元官僚が天下りしています。この天下り先を潰す訳にはいかないのです。
 「組織を守るためには、誰かを犠牲にしても良い」「組織を守るためには黒いものでも白と言い張る」「疑問を抱いても、組織を守るため沈黙を続ける」。行政も、大企業も、組織に身を置く人たちは、個人的に疑問を抱いていたとしても、正しいことを意見として表明できない自分を、「組織を守る」という身勝手な錦の御旗の下に、自分の意見を押し殺してきたのです。それが、組織における身の安泰を図る有効な方法だからです。企業においては、内部告発から不正が発覚したことがありましたが、行政における内部告発は、あまり耳にしません。あっても、早い段階で潰されるのかもしれません。
 このような国の方針の犠牲者は常に国民です。国民を犠牲にすることによって、為政者や権力者の立場が保全されてきたのです。「主権在民」ではなく「主権在官」となり果てた現実を見て、私が身を置いてきた建築の世界から、まず、何かを動かしたい。本来のあるべき姿に戻したいとの思いから、我が身にブーメラン現象で返ってくることも覚悟し、提言をさせていただきました。

 日建設計やJSCAの会長の見解によれば、建築基準法施行令などの法令・規準や「建築物の構造関係技術基準解説書」など国交省監修の文献等への適合が、建築確認や計画通知の審査においてチェックされていないようですので、全国の建築確認審査機関にアンケートを実施すべく準備を進めています。アンケートの質問事項の一部は、「東京都の建築確認や計画通知の審査では、建築基準法以外の法令・規準・技術解説書などの文献への適合は確認してないが、貴審査機関では、建築基準法への適合のみを確認しているのか?」「仮に、建築基準法のみに適合し、基準法以外の法令・規準に適合していない確認申請の場合でも、確認済証を交付しているのか?」といった内容です。
 行政裁判においては、「たとえ法令や規準を逸脱していても、必ずしも建物が壊れるとは限らない」という論法が通用することが多いようです。しかし、私が豊洲市場の問題を指摘していることは、技術論であって、裁判ではありません。「層間変形角が法令違反」という事実を正当化することは工学的にも法的にも無理があります。

 私たち協同組合建築構造調査機構は、建築における問題点や不正を正すことを目的の1つとしています。日建設計が不正な設計の事実を認めず、東京都が日建設計を擁護し続けるのであれば、私たちが、是正を求める訴えを提訴します。私たちが行動を起こさなければ、都民や市場関係者が困る事態となるので、訴訟を起こすことは致し方ありません。
 以前、データ・マックスが、東京都に、豊洲の設計図書について情報公開請求をしましたが、ついに公開されませんでした。是正を求める裁判を通じて、これらの設計図書の公開も求めたいと思います。

 豊洲市場の建物について詳細に検証を行えば、構造耐力に余力が残っているかもしれません。日建設計と東京都(行政そして建築主の立場として)は、構造検証を行い、検証結果を公開すべきです。検証を行わず、ブラックボックス的に「問題ない」と主張しても、客観的な証明にはなりません。
 「層間変形角が建築基準法施行令の定めに反していた設計であるが、法的にも工学的にも問題ない。その根拠は○○である」「法令・規準などに適合していないが、事前に工学的な検討を行っており、東京都も検討内容を確認している。その検討書(計画通知以前の日付で作成)とチェックの記録を提出する」と、明確に根拠を以って説明をすれば、都民も、我々技術者も納得できるかもしれません。

 豊洲市場での日建設計による設計で明らかになったように「建築確認や計画通知においては、法令や規準等への適合に関係なく、確認済証を交付する」という実態を、国土交通省や他の建築確認機関も認めるのであれば、建築基準法以外の建築関係規定・告示・条例・規準などには法的拘束力がなく、存在意義がないということになるので、直ちに撤廃すべきです。これらを撤廃すれば、建築コストは確実に下がります。建築主たちは、規準などに従わなければ建築確認を通過できないので、仕方なく、建築コストと引き換えに規準などに従っているのです。
 ただし、これらの建築関係規定等が撤廃された場合、これまで必要以上に建築コストを費やすことを強要された建築主たちから、建築確認機関や行政に対して、訴訟が相次ぐことは覚悟されておいた方が良いと思います。

 日建設計の違法な設計については、当然、行政処分を受けることが十分に考えられます。行政処分を受ければ、一定期間の営業停止となります。最近の事例では、アディーレ法律事務所が営業停止の行政処分を受けました。担当していた案件のすべてについて、契約を解除し、預り金等を返却し、代わりの法律事務所を手配するなど、大きな混乱になっているようです。これと同じように、日建設計が営業停止処分となった場合、設計業務、受注のための営業活動、工事監理もストップします。とくに、工事監理が停止した場合、監理者が不在となるので工事そのものもストップせざるを得なくなります。日建設計の規模で、営業停止処分となった場合、全国で大きな混乱が生じることは間違いありません。
 このような事態が想定されるので、日建設計は潔く誤りを認めて、東京都とともに、適切な対応を図るべきだと思います。

 
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