2024年03月29日( 金 )

営業マンが見たソニースピリッツ GPSカーナビ登場(後)

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市場価格を創造したソニー

 「ナビは大卒の初任給で買える価格にしよう!」

 まさに『発想の転換』でした。ソニー(株)車載機器事業部長のアイディアでした。
 1993年、画期的な価格のナビ「NVX-F10」 がソニーから登場します。4インチカラー液晶モニター付きセット、標準価格210,000円で発売開始です。操作性の良いジョイスティックリモコンを付属し、地図の高速マッハスクロールを実現(地図ディスク付属、テレビチューナー別売)。また液晶カラーモニターの採用は、液晶パネルが普及し始めたごく初期だったこの時代では画期的なことでした。

ソニーのナビゲーション NVX- F10 標準価格210,000円

 この NVX-F10は、ナビの新時代到来とばかりに爆発的に売れました。当時、私はカーオーディオ専門の営業部隊・ソニーオートプロダクツ(株)福岡営業所(九州7県担当)の所長をやっておりました。毎月の販売実績に追われる営業の日々でしたが、 NVX-10の商品力は売上に大きく貢献し、営業マンたちは明るい顔で営業活動を行なっていました。
 そして、大型カーショップの本社一括買い付けもあり、月初の3日間で売上げ180%を達成。多くのソニー関連会社が入居するソニービルのなかでも、抜群の存在感を発揮できた時期でもありました。
 カー用品市場では、ナビはオートバックスやイエローハットなどの大型カーショップやタイヤショップでも販売されるようになり、業界も潤いました。
 その当時はナビの測位能力が現在に比べていくぶん低く、海岸沿いのカーブが多い道路や、山道で木立の影になるポイントでは検索できないなど問題点は多々ありました。
 その後、技術的な改善が進み、GPSの電波情報のほか、車のジャイロセンサーからの情報も得ることでトンネル内やカーブでも位置情報が表示されるようになり、 5型カラー液晶モニターを備えた「NVX- F15」、ハンディタイプのナビ「GPS−5(コロンブス)」の発売、ルート検索や自動走行システムなどの搭載、VICS情報(Vehicle Information and Communication Systemの略。渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムに送信し、カーナビゲーションなどの車載機に文字や図形で表示する情報通信システム)の発展などで、ナビは非常に便利になっていきます。

 ソニーは地図会社の(株)ゼンリンと共同開発を行なっていましたので、北九州のゼンリン本社には何度も訪問しました。ゼンリンが将来を見据えてスタートさせた電子地図の開発部隊は当初は3人。ソニーのナビ開発部隊は技術やソフト関連を含めて80人の大部隊でした。
 ナビのスタートにあたって製造開発部隊は試行錯誤を繰り返し、一方の営業部隊は販売企画に汗水を流していました。
 将来、ナビゲーションが普及して、自家用車やタクシー、バスなどの交通機関に標準装備される時代が必ずやって来る。私たちは、その夢の実現に向けて日々の営業活動に従事していました。
 今や、GPS電波の受信技術が飛躍的に発展し、GPSは幅広い分野で活用される時代になりました。時計やスマートフォンにナビも内蔵され、携帯電話の電波が届かない登山でも使える地図アプリ「YAMAP」などが登場しました。
 また関連製品となる車載用テレビではデジタル放送が開始。アナログ放送で発生するスノーノイズやゴースト、雑音などの現象を気にしなせず、ナビゲーションと併用して気軽にテレビを楽しめる時代ともなりました。

 そして今、われわれは大きな声で言えるのです。『ナビゲーションを普及させたのはおれたちだ』と。

(了)

【池田 友行】

 
(前)

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