2024年04月17日( 水 )

小売業―かつてない激変期(2)~構造変化 新たなツールが変えるもの

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 グラフは2016年度までのEC市場の拡大と小売業におけるEC化率である。グラフでもわかるように、売上の伸びはこの5年で2倍近くに拡大している。昨年5%を超えたEC経由の売り上げはそう遠くない時期に20%近くまで拡大するというのが大方の見方であるが、それはそのまま既存の小売業のシェアが低下することにつながる。

 団塊の世代が現役を引退し、合わせて晩婚化と少子化で人口減と高齢化が進む我が国の消費市場にはもはや大きな成長は望めない。加えて、過去の手法に基づく販売手段の陳腐化も急速に進む。その最大のものがECによるショッピング形態の進化だ。
 国の内外でこの大きな将来変化を見越して生き残りに必要なECに対する投資が盛んだ。大企業は近い将来必要になるもので、自分で生み出す時間をかけられないものはM&Aで積極的に買収する。そこには競争のためのツールの入手が遅れるとすべてを失うという危機感がある。

これまでと何が違うのか

 ECを介しての買い物の特徴はまず宅配にある。時間が大きな価値をもつようになった近現代では利便性と時間の節約のためにEC以外のツールでの宅配が生まれ、発達した。しかし、型録やチラシ、新聞広告といったツールで紹介できる商品のアイテムは高々知れているし、価格比較も十分ではない。だから長い間、消費ツールの主流にはなれなかった。
 さらに食品、とくに生鮮食品に至ってはまさにリアル店舗の店頭が買いものの主戦場で、その充実が小売企業の大きなテーマだった。

 リアル店舗のメリットは「直接現物が確認できる」ことにある。色、形、量、価格、品質など、間接購入で確認しづらい部分を自分の手に取ってたしかめられる。とくに生鮮食品はその品質劣化の速さもあり、通販に馴染まないというのが通説だった。
 とくに団塊の世代以前の生鮮に対する考え方は鮮度が最優先で、そのニーズを満たすためにさまざまな研究、工夫が多くのスーパーマーケットで行われたがいずれも成功とは言い難く、生鮮宅配の分野は長期の停滞を余儀なくされている。

 昨年4月からアマゾンはアマゾンフレッシュという生鮮宅配を始めた。彼らは、ずいぶん以前に同じシステムをアメリカで始めたものの、その拡大、一般化を容易に実現できずに今に至っている。結果として、リアル店舗のホールフーズを買収し、システムの改善を図ったと推測される。

 しかし、今その分野に大きな変化が表れている。1つはECの一般消費者への浸透だ。ミレ二アル世代以降の消費者は生まれたときからパソコンがそばにある。
 さらにスマホの機能拡大でその利便性は格段に進化した。今や彼らはスマホを使ってモノを買うスタイルに何の抵抗もない。商品選択も発注、返品も指先1つで済ます。加えて、ラスト1マイルの変化である。従来は商品の配送には運送会社か自社システムを使うのが普通だった。しかし、今その部分にも画期的な変化が起きている。それは、デジタル化と配送市場の拡大、さらに働き方の変化が生み出す新しいラスト1マイルのかたちだ。

 考えてみれば過去、小売業のラスト1マイルはほとんど買い物者自身が担った。店に行き、自身の目で選択し、自分で持ち帰る。とくにスーパーマーケットではその傾向が強く、一般店の配達や生協的な宅配も大きな市場を形成することはなかった。鈴鹿市に本部を置くスーパーサンシのようにあきらめることなく宅配を続けてきた企業もあるが、大部分のスーパーマーケットは試行錯誤の末にそれをあきらめたという歴史がある。
 しかし、スマホというツールの登場と嗜好の変化で、宅配を取り巻く容易でない環境は大きく変わる。

 その変化の兆しはかなり以前に始まった。その象徴的な例が新聞の購読率の低下である。日本の小売業はほとんどがセールの案内を新聞チラシに頼っていた。しかし、この30年近くの間新聞の購読率は低下を続けている。
 新聞協会の調査では2000年に4,730万部を数えた一般紙の発行部数は年々減り続け、2017年には3.870万部になっている。
 1世帯あたりの購読数に換算すると、1.13部から0.75部にまで低下したということだ。率に換算すれば45%近くの減少になる。とくに朝、夕刊のセット部数は1,800万部から970万部へと半減している。
問題は若い層の新聞離れである。新聞の大きな部数減は小売業にも深刻な問題をもたらす。チラシによる販売推進がうまくできなくなるということである。
 そこで新聞に代る販売促進ツールの検討という戦略転換が求められる。若年層の新聞離れは単なる活字離れが原因ではない。情報収集のツールが新聞からパソコン、スマホに変わったことが大きく影響している。
 それはさらなる変化として商環境を変え、これからもさらに加速する。スマホが小売業の販促を個人に伝えるというかたちである。今や、小売店のアプリをスマホに取り込めば定期的にチラシを受け取ることができる。それがさらに注文、配達の生活スタイルに進行することは必然の理だ。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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