2024年04月27日( 土 )

小売業―かつてない激変期(1)~道路が先か車輪が先か

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 長い時間をかけて徐々にという場合もあるにはあるが、歴史をみるとたいていの場合、変化というものは急激に訪れる。
 人類が車輪というものを発明してすでに4,000年以上経つという。ずいぶん昔のことに思えるが、石の道具を使い始めた石器時代からの数万年を考えればごくごく最近の出来事でもある。
 気の遠くなるような時間を過ごしてやっとのことで人類が生み出した車輪は、モノを運ぶ手段として目覚ましい効果を発揮する。交易や侵略を従来に増して容易にし、人の交流による文化の発展やさまざまな分野の技術の交換、発展にも小さくない貢献をしたはずだ。
 車が生まれることによる大きな変革が起こった時代に現代を重ね合わせればどうだろう。パーソナルという言葉が一般化したのはコンピューターがそれまでのメインフレームから小型化し、個人がそれに接することができるようになった95年あたりからだろう。この年にはウインドウズ95が発売された。それから間もなく、ワープロが世の中から消える。
 そのほかにもいろいろなところで「パーソナル」と呼ばれる「個化」が進んだ。家庭でも個室が一般的になり、公衆電話は家庭電話に代わり、さらにそれは携帯電話になった。そして今やスマホという最新のパーソナルツールに進化し日常生活を根底から変えようとしている。

ラスト1マイル

 宅配の用語の中に「ラスト1マイル」というものがある。もともと通信業界用語だったこの言葉が小売業に使われ始めたのは、エスカレートするネット通販の過熱がきっかけである。
 長い間、通販は折り込みチラシやカタログと電話、はがきの組み合わせ、さらにマークシートでの注文というのが主流だった。しかし、パソコンというツールが生活の中に浸透し始めると、それを利用した購買行動が生まれることになった。最初パソコンによる取引はB to Bといわれる企業同士の取引だったが、いつの間にか、それはB to Cと呼ばれる小売業と消費者間の取引にも当たり前のように使われるようになっている。

 問題はそのことによって何が起こったかである。分野や国に関わらず、大きな変化が起こる時、影響を受けるのが既存の道具や組織である。長い歴史を経て積み重ねたそれらは、一見強固な存在としてそびえ、多少のことではその力は揺るがないと誰もが考える。しかし、所詮それは錯覚に過ぎない。
 環境という条件が変化するとき、それに対応できなければあっというまにその牙城が揺らぐのは誰もが知る通りである。
 バブル崩壊時の証券、金融機関、不動産業者、そして最近の家電業界。永遠に続くと思われていた大企業がいとも簡単にその姿を一変させる。そして、バブル崩壊やリーマン・ショックに匹敵する環境変化がまたしても今起こりつつある。それがECである。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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