2024年04月20日( 土 )

業務停止1年6カ月で破綻 不誠実な対応が招いた弁護士の末路(前)

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(弁) 北斗

 近年、弁護士の不祥事の増加が問題になっている。日弁連によると、2016年に懲戒を受けた弁護士の数は114件。20年前の27件から約4.2倍に増加し、統計を取り始めた1950年以降過去最多となった。福岡では、今年2月14日付けで(弁)が破産するという珍しい事例が発生した。法人名は、(弁)北斗。破産に至った最大の理由は、17年8月に1年6カ月の業務停止処分を受けたことだった。

資金繰りに窮して預り金を個人的に使用

 (弁)北斗は2012年7月に福岡市博多区で、(弁)ゆう法律事務所として設立。現商号に変更したのは14年3月のこと。会社法や労働事件などの一般的な弁護士業務だけでなく、IT関連の紛争解決や、特許・著作権などの知的財産権の取得・活用などの技術コンサルティングなどを得意分野としていた。このほかにも企業支援や民事再生、事業承継やM&Aといった案件も受任。所属弁護士は同法人の代表である田畠光一弁護士のみ。

 田畠弁護士および法人は、昨年8月31日付けで福岡県弁護士会から1年6カ月の業務停止処分を受けたことで事業継続が困難になり、田畠弁護士が代表弁護士を辞任。唯一の社員がいなくなったことで、(弁)北斗は懲戒処分と同日付けで解散している。この後、18年2月14日に福岡地方裁判所において、破産手続き開始決定を受けた。 
 負債総額約1億1,300万円ということから、同法人が業務停止の懲戒処分を受ける以前から経営難に陥っていたことは想像に難くない。

 しかし致命傷となったのは、やはり今回の懲戒処分である。
 懲戒に至った主な原因は、同弁護士および法人が受任した複数の破産申立事件において、依頼者からの預り金と報酬を区別せず、ずさんに管理し、ほとんどを事務所経費や個人的な使用にあてたというもの。法人名義の預り金口座から引き出した金額は、1,661万664円に上る。このほか、事件受任後、破産申し立てまでに1年から2年を要するなど、依頼者から苦情が寄せられていた。

狙いの企業コンサル、成り立たず

 代表弁護士・田畠光一氏は、大阪府出身の1975年生まれ。98年に九州工業大学情報工学部を卒業し、(株)日立製作所九州支社に技術営業として入社。同法人のホームページに掲載されている「理系のバックボーンを生かして~」という文言は、こうした経歴によるものであると推察される。同社を退職後、弁護士になることを決意して予備校に通い、司法試験に合格。2005年に弁護士登録を完了。福岡市内の弁護士事務所で勤務する傍ら、九州大学ビジネス・スクール(QBS)に通い、マーケティングと経営を学ぶ。08年に同校にてMBA(経営学修士)を取得している。

 田畠弁護士が目指したのは、書類のチェックや事件解決といった一般的な弁護士事務所ではなく、法的知見を生かした中小企業向けのコンサル。QBSで経営を学んだのも、コンサル色を強くもつ事務所を自ら立ち上げるためだった。

 田畠弁護士は(弁)北斗を設立する以前の10年4月にも、もう1名の弁護士と共同で別の法律事務所を立ち上げている。事務所名は「経営法律事務所 北斗」。「紛争を未然に防いで効率的な経営をサポートする。同時に、マーケティングを含めたコンサルティングによって、中期的な事業計画まで支援する」ことをコンセプトとし、経営コンサルを重視する田畠弁護士の方針が色濃く表れていた。

 また、ベンチャー企業の増加に着目し、起業家への法的アドバイスの提供も主要な業務に掲げている。ベンチャーが盛んなシリコンバレーを手本に、起業家が企業を立ち上げる時点でリーガルチェックを行い、リスクを軽減できることを売りにしていた。

 田畠弁護士を、法人顧問弁護士として迎えていた企業がある。そこで当初支払われていた顧問料は、月額45万円。当時、この企業があった地域の弁護士顧問料の相場は月5万円程度で、45万円は破格。料金には「経営改善料」が含められていたようだが、最終的には、顧問契約料の5万円のみが支払われていたようだ。

 専門家によると、「顧問料+経営改善料(コンサル料)=45万円」が妥当な金額かどうかは、具体的な業務次第になるため、一概に多い、少ないを判断することは困難。ただし結局、顧問料のみの支払いとなっていることを鑑みると、経営コンサルとしての役割を十分はたすことができていなかったのではないかと推察される。このほかにも、役員から求められた資料などを提出しなかったことが数回あるという話も聞かれた。

(つづく)
【中尾 眞幸】

 
(中)

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