2024年04月26日( 金 )

業務停止1年6カ月で破綻 不誠実な対応が招いた弁護士の末路(中)

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(弁) 北斗

進まぬ事件処理に依頼者から悲鳴

 今回の懲戒処分の一因にも挙げられているように、田畠弁護士にはこれまで事件処理の遅れについての苦情がたびたび寄せられていたと聞かれる。この「事件処理の放置」について田畠弁護士は、16年4月にも懲戒処分を受けている。

 懲戒理由は、(弁)北斗は同一の依頼主から14年6月と11月に受任した2件の交通事故による損害賠償請求事件について、処理を放置したこと。

 受任当初は、当時雇用していた弁護士Aを主な担当者として、ともに事件処理を進めていたが、14年11月末に弁護士Aが退職。事件処理を行うのは田畠弁護士となった。しかしその後、依頼者がほかの弁護士に切り替える、もしくは解任するまで、依頼者と直接会うこともないまま事務員に対応を任せ、事件の早期解決に向けた活動を行わなかった。(参考:日本弁護士連合会「懲戒処分の公告」)

 1回目の事件を受任してから解任されるまで、事件が放置された期間は約8カ月。一刻も早く事件解決を願う依頼主にとって、決して短い期間ではない。

 処分は戒告にとどまるものであったが、弁護士としての信用を落とし、依頼者に迷惑をかける行為であったことは間違いない。

 田畠弁護士の事件処理の遅れは、持病が一因という話を聞く。実際に、16年の懲戒処分では、「持病により十分執務できない事情を依頼者に説明し、辞任するなどの対応をとらなかった」(参考:日本弁護士連合会「懲戒処分の公告」)ことも理由の1つとして挙げられている。

 病気の症状の程度によっては、業務に支障が出てもやむを得ないこともあるだろう。
 しかし問題は、懲戒処分理由で指摘されているように、依頼者たちに対し、持病により十分執務できない事情を説明していない点だ。事前に説明を受けたうえで、依頼者も処理が遅れる可能性について納得していたなら話は別だが、懲戒理由にあるように説明を怠っていたのであれば、やはり同弁護士の過失といえる。

 また、16年8月の懲戒処分理由の骨子である“預り金関連の不祥事”に関して、弁護士業界全体としては、取り締まりを強化する傾向にある。

 2011年から12年にかけて、弁護士による巨額の詐欺事件や預かり金の横領事件が相次ぎ、弁護士に対する市民の目は厳しいものとなった。

 これを受けて日本弁護士連合会(日弁連)は12年10月に「弁護士不祥事対策検討プロジェクトチーム」を編成、13年5月の定期総会で「預り金等の取扱いに関する規定」を可決、同年8月に施行された。
 同規定では預り金のみを管理する専用の口座を開設すること、預り金を保管するときは、自己の金員と区別し、預り金であることを明確にする方法で保管することなどが取り決められている。

 なお、17年3月3日の規定改正で、各弁護士事務所は所属弁護士会に預り金口座の届け出を提出することが義務化されている。

 それにも関わらず、今回のように預り金が絡む問題は、田畠弁護士に限った話ではなく、預り金関連の懲戒処分例は後を絶たない。

 福岡市の大手弁護士事務所の弁護士は、「預り金口座を別途設け、管理することは常識的なことで、本来ならルール化するまでもないこと。しかし、義務化しなければ管理できない弁護士が多いのが現実。田畠弁護士以外にも、違反予備軍はたくさんいる可能性が高い」と話す。

(つづく)
【中尾 眞幸】

 
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(後)

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