2024年04月30日( 火 )

福岡市は災害安全都市?大規模地震への備え(前)

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 福岡市が行った市政に関する意識調査によると、8割以上の市民が「災害に対して安全」との認識をもっているという。しかし、本当に安全なのだろうか。そこで、大地震発生にあたって市内で起こり得る事態について各種の調査や統計など基に分析し、あるべき備えについて考えてみたい。

低い市民の危機意識

 2005年3月20日、玄界灘でM7.0、最大震度6弱の「福岡西方沖地震」が発生。福岡市内における被害は、死者1名、負傷者約1,200名、住家全壊約140棟などといったものだった。震源に近かった福岡市西区の玄界島で住宅の半数が全壊したほか、市内中心部でも旧福岡ビルの窓ガラスが破損、落下するなどの被害が見られた。福岡西方沖地震は、気象庁で震度データベースが整理されている1926年以降、初めて福岡県内で震度5以上の地震となった。その後、大規模な地震が発生していないこともあり、福岡市民の災害への危機意識は総じて高くないようだ。

地震の後、住宅が再建された玄界島の様子
地震の後、住宅が再建された玄界島の様子

    それが如実に表れているのが、福岡市が23年に行った市政に関する意識調査。それによると、「現在住んでいる地域が災害に対して安全だと思っていますか」という問いに、21.8%が「安全だと思う」、62.5%が「どちらかといえば安全だと思う」と回答しており、全体では8割以上が安全と考えていた。ただ、「日ごろ、とくに不安に思っている災害は何ですか」(複数回答)という問いには、「地震」82.1%、「台風」59.8%、「感染症」(新型コロナなど)47.4%、「猛暑」46.5%、「火災」46.0%などが上位に挙がり、地震に対する警戒感が強いことを明らかにしていた。

 日本は地震大国であり、大地震はどこで発生してもおかしくない。それが福岡市の直下で発生する可能性も決して否定はできない。では、その万が一の事態はどのように想定されるのであろうか。

耐震化率は高いが…

 その具体的なイメージを示しているのが、福岡県がまとめた「地震に関する防災アセスメント調査」(14年)だ。それによると、福岡市内だけを見ても警固断層帯、宇美断層、日向峠―小笠木峠断層帯があると指摘。地震の規模については、それぞれM7.2、M7.1、M7.2としている。なお、30年以内の地震発生確率についてはそれぞれ0.3~6%、ほぼ0%、不明とされているが、発生することを想定したうえで話を進めていく。

 同調査では、このうち福岡市の中心部直下にあるとされている警固断層帯の地震が発生した場合、市内中心部などが震度6強以上の揺れに襲われ、市街地の広範囲で震度6弱、死者458人、負傷者3,171人、全壊4,523棟、半壊3,474棟という被害が発生すると想定している。同調査は東日本大震災の翌年に行われ、当時の人口(149万4,603人、12年10月)などをベースにしたものだ。現在の人口(164万2,571人、23年10月)に当てはめれば、より被害が大きくなる可能性がある。

【図1】福岡市総合ハザードマップ 揺れやすさマップ 

 大地震において、最も懸念されるのが建物への被害だ。なかでも住宅は、その後の復旧・復興、暮らしの再建に大きな影響をおよぼすため、とくに対策が必要である。

 福岡市の「耐震改修促進計画」によると、市全体の住宅耐震化率(1981年6月に改正された建築基準法に適合する住宅=新耐震が全住宅に占める割合)は13年時点で 86.7%と推計されており、これは18年時点の全都道府県平均の推計87%と同水準。このことから約10年が経過し、建替が進んだ現在では90%を超えるレベルにまで高まっていると推測される。ただ、13年時点で福岡市の木造戸建住宅の耐震化率は、全体より低い78.3%にとどまっていたことには注意が必要だ。

熊本地震では築浅の住宅も倒壊した
熊本地震では築浅の住宅も倒壊した

    耐震基準は旧耐震基準、新耐震基準(81年6月以降)、耐震等級3(2000年6月以降)の大きく3つに区分される。このうち、「耐震化」に含まれる新耐震基準で建てられた住宅が阪神淡路大震災(95年)で大きな被害を受けたため、その後新たな耐震基準が設けられたという経緯がある。新耐震基準適合住宅もすでに築後40年が経過し、経年劣化が激しいものも少なくない。16年4月に発生した熊本地震では比較的築年数が浅い住宅も倒壊しており、耐震化率が高いというだけで備えを怠るのは禁物だろう。

繁華街の課題

 なかでも福岡市において懸念されるのが、古い木造住宅(店舗兼用を含む)が密集している場所が散見されることだ。博多区や中央区の繁華街近くの周辺部、たとえば春吉エリアなどだ。そこには若者が数多く集まり、コロナ禍明けになってからは韓国人・中国人などの外国人観光客の姿も目立つようになっている。仮に夜間帯に大きな地震が発生し、建物が倒壊し道をふさぎ、かつ火災が発生するようなことがあれば、多くの人たちが逃げ場を失うことにもなりかねない。

狭い路地を挟んで立ち並ぶ木造住宅
(中央区春吉)

    繁華街といえば、中洲エリアも大規模地震発生時に大きな被害が懸念される。こちらは、鉄筋コンクリート造のテナントビルがメインだが、築40年以上の建替時期を迎えている建物も多い。17年12月には築50年以上が経過した丸源ビル43で、地上19mの高さに掲げられていたネオン看板の枠が落下し、消防隊が出動する事態も発生している。中洲の歩行者交通量は平日(午前7時~午後8時)約1万3,800人、休日(同)約1万5,400人(福岡市「令和3年度 都心部歩行者交通量等調査結果」)となっているが、最近ではここでも外国人の往来が増えている。

(つづく)

【田中 直輝】

(後)

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