2024年05月07日( 火 )

業務停止1年6カ月で破綻 不誠実な対応が招いた弁護士の末路(後)

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(弁) 北斗

増加する弁護士の懲戒処分、小手先の誤魔化しは利かない時代へ

 預り金関連に限らず、弁護士の懲戒件数は増加の一途をたどっている。日弁連によると、16年の弁護士の懲戒処分件数は114件で、統計を取り始めた1950年以降過去最多となっている(【図1】)。

図1_弁護士の懲戒処分件数推移(日本弁護士連合会「2016年懲戒請求事案集計報告」を基に作成

 また、13年から16年までに懲戒を受けた弁護士の処分時の年齢を見ると、各年とも60歳以上の弁護士の懲戒件数が多いことがわかる(【図2】)。

図2_懲戒処分を受けた弁護士の処分時の年齢(出典:日本弁護士連合会「弁護士白書2017年版」

 これらの原因の一端には、弁護士数の増加が挙げられる。2000年時点の弁護士数は全国で1万7,000人程度であったが、17年3月末時点では3万8,980人と約2.3倍に増加。

 弁護士が増えたことで、以前のように事務所を構えていれば仕事が入る、という時代ではなくなった。弁護士たちは経済人の集まる交流会への参加や、各種団体に所属することで“営業”を行うか、効果的なインターネット広告を打ち出すといったネット集客を行わなければ生き残れない。

 顧客の獲得に苦戦し、逼迫する若手弁護士が多いことはよく聞くが、高齢のベテラン弁護士の懲戒件数が多いのは、こうした時流に乗れなかったことが一因であると考えられる。

 ある弁護士からは「仕事が少なく、逼迫している若手弁護士は、そもそもお金を預かる機会が少ないため、横領は少ないのではないか。他方、仕事が減少したり、公私で借金を抱える中堅・ベテラン弁護士が資金繰りに困り、預り金に手を出してしまったりするケースが考えられる」という意見が聞かれた。

 弁護士の立場を危うくしているのは、人員の増加だけではない。士業全体に当てはまることだが、近年の目覚ましいIT技術の発達により、書類の確認や作成、訴訟といった従来通りの弁護士業務だけでは、近い将来AIにとって代わられる可能性が高い。

 これを危惧し、従来の士業の業務から転換を図る者も多い。とくに、法務や税務などの専門的分野から、起業家の支援や企業の経営指南を謳う、経営コンサル色の強い士業事務所が散見されるようになった。

 いまでこそ“士業の観点から経営コンサルを担う”という考えは珍しくなくなったが、田畠弁護士が「経営法律事務所 北斗」を開設した2010年はまだ目新しかったはず。

 現在の需要と、ほかの事務所との差別化を図る観点から見ると、田畠弁護士の方針は時代に即したものであったといえる。

 ではどこで、田畠氏は弁護士としての道を誤ったのか。
 ある弁護士からはあくまでも個人的意見として、「本当に『経営がわかる』弁護士というのであれば、非常に有用な人材かと思われる。しかし、残念ながら「経営がわかる」と称する人は、金儲け主義が多く、弁護士としての節度を失いがちなのではないかと感じる。(前述の顧問契約について)依頼者から弁護士費用だけでなく、よくわからないコンサルタント報酬を取ったりするのは、その典型かもしれない」という意見が聞かれた。

 田畠弁護士が金儲け主義だったかは定かではない。だが、持病により業務を通常通り遂行できなくなっただけであれば、集中的に治療に専念し、回復を待って弁護士としてやり直すことができた。しかし、同弁護士は十分に業務を行える状態でない可能性があるにも関わらず依頼を受け、預り金に手を出すという最悪のパターンで、事業の存続が不可能となるほどの懲戒処分を受けた。弁護士の破産は、資格の喪失を意味する。免責許可決定が確定すれば復権は可能だが、この経緯で弁護士もしくは経営コンサルとして立て直すのは難しい。

 今後ますます弁護士としての在り方が問われ、競争激化が予想される弁護士業界。表沙汰にならないだけで、“懲戒予備軍”ともいえる弁護士は多く、日弁連や各弁護士会の規定だけでは、不祥事に走る弁護士を減らすことは難しい。

 今回の(弁)北斗の破綻は、こうした弁護士業界の問題を浮き彫りにしたといえる。弁護士としての信頼を取り戻すために、業界全体で一層の自浄努力が求められる。

(了)
【中尾 眞幸】

 
(中)

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