2024年05月19日( 日 )

「孤独」の処方箋(後)─孤独を楽しむ間取りとは─(1)

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孤独の間取り
孤独の間取り

 日本のサラリーマンは忙しすぎる。たとえば50代以上の「モーレツサラリーマン」であれば、仕事最優先、出世や昇進を目指してがむしゃらに働くなかで、社外のコミュニティ活動などになかなか時間が取れない。ここのところの「働き方改革」で突如暇ができても、いったい自分が何をやりたいのかわからないと戸惑う人も多い。「イクメン世代」の30代・40代の男性たちは、仕事も家事も頑張れとハッパをかけられ、自分の時間もままならない。本人は頑張っているつもりでも、妻にはダメ出しをされ、毎日家庭と仕事との板挟み…。男たちは結局、友人との時間、趣味の時間、自分の時間をあきらめざるを得なくなってしまう。自分の人生なのに借りもののように生きた結果、周囲との関係性を深めることができない。孤独に陥りやすい男性、その原因を推考し、全方位から対症方法を考えてみたい。

仕事以外にコミュニティ

 ソーシャルキャピタル(社会関係資本)―家族以外のネットワークや、地域活動への参加などといった、社会や地域における人々の信頼関係や、結びつきを表す概念のこと。社会の結束力、人間関係の豊かさを示す指標とされている。

 日本では、たとえば「健康」や「安全性」などでは高い数値を獲得しているが、この「ソーシャルキャピタル」だけが突出して低い(参考図示)。ソーシャルキャピタルを築くためには、自分の周りに気軽に話しかけられる人のネットワークをつくっておくことだ。サッカーやダンスや将棋、地域のサークルに参加するのも良いだろう。会費も1回500円程度のところからある。気になる情報を定期的にインターネットで発信するのもいいだろう。行きつけのスーパーの馴染みの店員さんと挨拶を交わすだけでもいい。

国の豊かさを評価する「繁栄指数」~日本の場合 出典:参考文献「世界一孤独な日本のオジサン:岡本純子」
国の豊かさを評価する「繁栄指数」~日本の場合
出典:参考文献「世界一孤独な日本のオジサン:岡本純子」

 健康と幸福には、良い人間関係が欠かせない。家族や友人、コミュニティとよくつながっている人ほど、幸せで長生きする。孤独は命取りなのだ。重要なのは、友人の数や、生涯をともにする相手の有無でもなく、身近な人たちとの関係の質。「心から信頼でき、頼ることができる人たちと、深く、意味のあるつながりや関係性を築いていけるかどうか」だ。コミュニティを早くから持っていることは、その手助けになっていく。ボランティアやアルバイトでもいい。何かしら自身の活動につながるものに足を踏み入れておく。その種まきを若いうちにしておきたい。

家族のなかに居場所を

 仕事や家事育児の、向き不向き、好き嫌いに男女差はほぼない。もちろん出産と母乳の直接授乳だけは女性しかできないが、この2つは人生のほんの一時の話。そもそも人間というのは、男女という2つだけに分けられるほど単純な生き物ではない。たとえば、バリバリ働き稼ぐのが上手な女性もいれば、仕事より家事が好きという男性もいる。大工仕事が得意な女性もいれば、お菓子づくりが得意な男性もいる。

 つまり、「男だから大黒柱として働くべき」「男だから大工仕事を担当すべき」「女だから子育てに専念すべき」「女だから料理を担当すべき」というように性差によって役割を決めていくと、本人の資質を生かせずストレスを生み、不仲を生み、生産性も上がらないという悪循環に陥ることもある。それは家庭にとって、大きなマイナスだろう。家庭内の役割分担は、性差ではく個人差で決めていくのが一番合理的でスムーズだ。男だからやる、女だからやるではなく、時間的にやれるほうが、または資質としてふさわしいほうがやる。「子育て中でも仲が良い夫婦」は、社会的な常識よりもそういう視点で役割分担を決めていることが多いのだ。

 人間は子どもが生まれた瞬間に、細胞が入れ替わって「親という別の生き物」に変身するわけではない。「親という自分」というモードが1つ増えただけで、性格や趣味や思考が大きく変わるわけではないし、体質や体力が超人になるわけでもない。それなのに、親以外の「人間的な部分」や「弱い部分」を急に全否定されるのは酷な話だ。とはいえ、孤独になるまいと過度に深追いしてしまうと、子育てのような激務は続かない。続かなければそこから離れてしまい、また元に戻ってしまう。適度にその距離を保つことも必要で、1人時間とは、うまく付き合っていきたいところ。だからこそ、育児中でも「親じゃない時間」をもつのはかなり大事だ。「子育て中でも仲が良いカップル」はこの仕組みを理解しているので、それぞれが好きなことができる1人時間をもてるように生活を組み立てる。そして家庭によっては、定期的にデートの時間を楽しむ。このデートには、単なる娯楽以上に、子どもなしでゆっくり対話ができて、家族の問題を解決に導きやすいという側面もあるようだ。
 コロナ禍で、世界中の家族の暮らしが劇的に変化した。在宅時間が大幅に増えたことで、もともとうまくいっている家族はさらに団結が強まり、もともとうまくいっていなかった家庭はより問題が悪化する、世界的にそんな二極化が起きた。男たちよ、家庭のなかに自分の居場所を見出そう。夫婦で子育てについて語り、役割を仕分けし、「家族」を組み立てよう。子育ては、「数あるプロジェクト(仕事)の1つ」だと捉えるのだ。

”家族”を組み立てる PAKUTASO
”家族”を組み立てる PAKUTASO

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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