「孤独」の処方箋(後)―孤独を楽しむ間取りとは―(2)
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日本のサラリーマンは忙しすぎる。たとえば50代以上の「モーレツサラリーマン」であれば、仕事最優先、出世や昇進を目指してがむしゃらに働くなかで、社外のコミュニティ活動などになかなか時間が取れない。ここのところの「働き方改革」で突如暇ができても、いったい自分が何をやりたいのかわからないと戸惑う人も多い。「イクメン世代」の30代・40代の男性たちは、仕事も家事も頑張れとハッパをかけられ、自分の時間もままならない。本人は頑張っているつもりでも、妻にはダメ出しをされ、毎日家庭と仕事との板挟み…。男たちは結局、友人との時間、趣味の時間、自分の時間をあきらめざるを得なくなってしまう。自分の人生なのに借りもののように生きた結果、周囲との関係性を深めることができない。孤独に陥りやすい男性、その原因を推考し、全方位から対症方法を考えてみたい。
キレる高齢者
「暇だ」「話し相手がほしい」「自分にイライラしている」「人生に対する不安や不満を、誰も本気で聞いてくれない」ことで、“キレる”高齢者が増えているという。病気や身体的な不自由、金銭的な不安もあるだろう。
内閣府の「高齢者白書」(2010年)によると、友人がいる人や近隣との付き合いをしている人の場合、9割近くが生き甲斐を感じているが、友人がいない人ではわずか4割、近隣との付き合いをしていない人では6割にとどまった。社会から置き去りにされたような感覚は幸福感を蝕み、生きる意欲を削いでいく。日本人の自殺についての統計を見ると、40~60代男性の自殺率が最も高く、同世代女性の2倍以上に上っている。
高齢の男性が妻を亡くすと、精神的なショックが非常に大きいという話はよく聞くが、実際にアメリカの研究によると、妻を亡くした高齢男性の死ぬ確率は30%上昇するが、夫を亡くした妻の場合はまったく変化がなかったという。家事など妻に頼り切りで、身の回りのことができないという理由もあるかもしれないが、話し相手を失い、精神的にも孤立しやすくなるということも影響しているだろう。準備をしてこなかった夫が妻を亡くした場合、その夫はほかに身寄りのない自分自身を、一気に孤独の世界へと突き落としていくのだ。
SNSでキレる中高年
弁護士ドットコムの調査によると、「ネット上で誹謗中傷をしたことがある」と答えた人の割合は、若者より中高年、とくに中高年男性に多いことがわかっている。中高年男性による誹謗中傷の動機で最も多いのが、「正当な批判・論評だと思った」だ。つまり本人たちは誹謗中傷だとは思っていない。「自分にとっての正解」が脳内を支配し、正義の制裁を加える自分に酔っている。本来備わっているはずの冷静さや自制心、思いやりなどが消し飛んでいる。そう、高齢者と同じく、中高年世代もキレているのだ。
彼らを誹謗中傷や暴行・傷害に走らせているのが、まさに孤独だ。人は、年齢を重ねるほど寛容になるはず。にもかかわらず攻撃的になってしまうのは、強い孤独感があるからにほかならない。家族から孤立し、友人関係から孤立し、地域で孤立する。職場では、社員1人ひとりのプライベートな時間が重視され、かつて中高年サラリーマンが慣れ親しんだ「飲みニケーション」は、アルコールを飲まない若い社員から敬遠されるご時世。このようにして彼らは、職場ですらつながりを見出すことが難しくなっている。
今の中高年男性の多くは、顔の見える強いつながりを失った状態にあるのだ。そんな彼らが向かう先がネットの世界。行き場を失った中高年男性のそばに“誰か”はいないが、スマホはある。他人に正義の鉄槌を下すと脳の快楽中枢が刺激され、一瞬でも寂しさを忘れられる。こうして次々と罰する対象を探し求めては、SNSで誹謗中傷を繰り返すようになるのではないだろうか。孤独感を解消しない限り、この悪循環は続くだろう。
(つづく)
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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