2024年05月06日( 月 )

「孤独」の処方箋(前)、国民病を分析する(1)

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孤独の対症療法 PAKUTASO
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 日本のサラリーマンは忙しすぎる。たとえば50代以上の「モーレツサラリーマン」であれば、仕事最優先、出世や昇進を目指してがむしゃらに働くなかで、社外のコミュニティ活動などになかなか時間が取れない。ここのところの「働き方改革」で突如暇ができても、いったい自分が何をやりたいのかわからないと戸惑う人も多い。「イクメン世代」の30代・40代の男性たちは、仕事も家事も頑張れとハッパをかけられ、自分の時間もままならない。本人は頑張っているつもりでも、妻にはダメ出しをされ、毎日家庭と仕事との板挟み…。男たちは結局、友人との時間、趣味の時間、自分の時間をあきらめざるを得なくなってしまう。自分の人生なのに借りもののように生きた結果、周囲との関係性を深めることができない。孤独に陥りやすい男性、その原因を推考し、全方位から対症方法を考えてみたい。

妻と夫のネットワーク格差

 ある男性の話。「“仕事が生き甲斐なわけではない”ずっとそう思っていた。退職後はノルマに追われることもないし、何でも自由なことができる。自分ならきっと充実した老後が送れるはずだ、そんな自信もあった。しかし、ふたを開けて気づいたのは、自分の人生がどれだけ仕事によって支配されていたかということ。やりがい、プライド、仲間、必要なものはほとんど仕事によって満たされていた。仕事を失って痛切に感じるのは、“認められない”“必要とされていない”“自分は何の価値もない”―そんな思いだった。まるで自分が透明人間になってしまったような寂しさだ」。

女性は老後に備えている PUBLICDOMAINQ
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    一方、女性は学校の保護者会で、近所で、趣味の場で、交友関係を広げ、ネットワークを貯蓄し、コミュニケーションスキルにさらなる磨きをかけ、老後に備えている。妻は子育てや職場、趣味を通じて、親密で強力な「ママ友」や仲間の輪を広げており、気が付くと夫と妻の間には大きくて深い「ネットワーク格差」が生まれている。男性が家事に入っていくことができれば、このあたりの溝を少しは埋められるかもしれない。定年を迎え、自分のアイデンティティーそのものだった「職場」を失い、「家」でも邪魔者扱い、外へ出ても集まる友人もいない…。そんな恐怖心と隣り合わせで「バラ色のリタイアライフ」の絵を描けず、人生を終えていく男たちは少なくないだろう。

孤独は国民病

 肥満より、大気汚染より、環境ホルモンより、食品添加物より、お酒より、あなたの健康を蝕み寿命を縮めるものがある。「孤独」だ。

 メタボにならないように食事に気を付けよう、お酒やたばこを控えよう、健康のために運動をしよう、と気を遣う人は多いが、「孤独」の悪影響について理解し、具体的に対策をしようと考えている人はあまりいないだろう。日本では孤独を楽しむ、孤独と向き合うという精神論が広く支持されている。男たるもの武士のように誇り高く孤高であるべき、という美学もある。こうした「孤独=善」という考え方が、日本を世界に冠たる「孤独大国」にしているのかもしれない。しかし本来、人はソーシャルアニマルで、人と人の結びつきのなかでしか生きていけない動物だ。

孤独は国民病 PAKUTASO
孤独は国民病 PAKUTASO

    孤独は21世紀の世界、そして日本の大いなる課題になってきている。社会の性格を変えていくには、家庭のなかから少しずつ変えていけばいい。世の男性たちよ、今からでも遅くはない、少しずつでも家庭に足を踏み入れよう。名もなき家事に勤しみ、時には子どもの参観・懇談会に参加しよう。男性にもできるネットワークをつくり始めよう。その分稼ぎが減るのなら、妻を頼りにしようではないか。“男だから家族を養わせる義務がある”は、今は昔。女性にもその重責の片鱗を担いでもらえばいいじゃないか。1人で抱え込まず、妻と、奥さんと、女性と、肩の重荷を分け合おう。「社会進出をはたした今の女性」は、それだけ力強い存在になっているはず。その苦労を分かち合うことは、今後の“男子存続”にとっても有用な打算点になる。

鎧を脱げない男たち

 世界一孤独な国民といわれる日本人。孤独は「国民病」として、多くの人の心身を蝕んでいる。とりわけこの「孤独」の犠牲者になりやすいのが、中高年の男性だ。彼らは(私も含め)コミュニケーション不器用で、世間話やおしゃべりが得意ではない。他人との垣根が高く、打ち解けるのに時間がかかる、愛嬌を振りまくのも苦手…。そんなタイプの男性は耳を傾けてほしい。いざとなれば「以心伝心」「言わぬが花」「沈黙は金なり」という言葉を盾にして、言わなくても何となく伝わるのが日本文化。そんな迷信もあってか、日本人の「言葉にして表現する」コミュ力はいまだ発展途上にある。きちんと自分の意見を論理立てて話す、人の心を揺さぶる説得力が、まだ国民全体に行きわたっていない。

鎧は脱げるか PAKUTASO
鎧は脱げるか PAKUTASO

    男たちは、仕事では“盾と剣”で自分を武装しながら日々戦っている。いきなり鎧を脱いで素の自分になり、“新しく友人をつくる姿”など想像ができないのだ。漠然とした不安を押し殺しながら、目の前にある仕事と家庭に向き合う日々。「孤独」を生み出す内的要因として、この“鎧を脱げない”という精神論が根深くある。太古から謳われてきたこの男らしさこそ、孤独の元凶かもしれない。「男は1人で生きていくべき」という社会規範が根強くあり、男は男らしくあるべきといった伝統的、遺伝的な考え方は、孤独や空虚感、つながりの欠落、共感や思いやりの抑圧を生み出す原材料なのだ。「短期孤独」は必要なときもあるが、「長期孤独」は心身を蝕んでいくのだ。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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