2024年04月30日( 火 )

「孤独」の処方箋(前)、国民病を分析する(2)

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 日本のサラリーマンは忙しすぎる。たとえば50代以上の「モーレツサラリーマン」であれば、仕事最優先、出世や昇進を目指してがむしゃらに働くなかで、社外のコミュニティ活動などになかなか時間が取れない。ここのところの「働き方改革」で突如暇ができても、いったい自分が何をやりたいのかわからないと戸惑う人も多い。「イクメン世代」の30代・40代の男性たちは、仕事も家事も頑張れとハッパをかけられ、自分の時間もままならない。本人は頑張っているつもりでも、妻にはダメ出しをされ、毎日家庭と仕事との板挟み…。男たちは結局、友人との時間、趣味の時間、自分の時間をあきらめざるを得なくなってしまう。自分の人生なのに借りもののように生きた結果、周囲との関係性を深めることができない。孤独に陥りやすい男性、その原因を推考し、全方位から対症方法を考えてみたい。

コミュ力を鍛える

男たちよ、このままでいいのか。 PAKUTASO
男たちよ、このままでいいのか。 PAKUTASO

    こういった“〇〇らしさ”の縛りは、もちろん女性にも存在し、“美しくあれ”“かわいらしくあれ”といった圧力がある。しかし、伝統的な価値観を抜け出て、女性が強く自立した「男性的」な生き方を志向することは、ポジティブにとらえられるようになってきている。たとえば女性が、これまで男性の独壇場だったパイロットや科学者、技術者などといった職業で活躍することは、ヒーローのように称賛される。一方で男性が、女性が大多数の職場、たとえば「キャビン・アテンダント」「バスガイド」などとして活躍する話は、それほど多くはない。日本社会ではいまだに、男性が「女性らしい」言動をすることに、強い偏見のようなものが残されているようにも感じる。

 つまり、女性が男性のようにふるまうことはある程度許容されても、男性が女性のようにふるまうことには、まだ抵抗があるということではないだろうか。長年、ジェンダーの壁を打ち破ろうと戦ってきた女性が、その成果を少しずつ手に入れ始めているのに対し、男性はいまだにその因習にとらわれ、男らしさの呪縛で身動きができなくなっているという(参考文献:世界一孤独な日本のオジサン/岡本純子)。

 男性は仕事という戦場で戦い続けているうちに、「プライド」という分厚い鎧を纏った。その鎧はハンマーでもトンカチでもドリルでも壊れないので、自分から脱いでいくしかない。しかし、それが死ぬほど難しい。男性は群れるより、孤高を選ぶ。本当は寂しいのに、そうやってやせ我慢をしてしまっている人は少なくないはずだ。

 男たちよ、本当にこのままでいいのか。我々は男の行動をアップデートしなければならないのではないか。家事に入るも良し、おしゃべりを磨くも良し、料理や掃除をして自活力を上げるも良し。

 女性はすでに、自活力も稼ぎも、その両方を手に入れつつある。男性は、自分たちが生き残っていくための術を身につけていかなければならない。孤独を脱する準備が求められているのだ。

近所がない

近所がない PAKUTASO
近所がない PAKUTASO

    ここ10年、人々の絆やつながりが急速に希薄化している。孤独を生み出す外的要因として、社会環境の変化も大きくあるようだ。乱立するタワーマンションで孤立する高齢者。集合住宅で、誰にも看取られず亡くなっていく独居老人。都心では隣近所も付き合いがなく、それぞれの家がまるで「独房」のように孤立している。昨今では“近所がない”といわれる。

 日本では、個人や家族という「私」と、政府やお役所などの「公」の間にある、コミュニティ・組織などの中間集団、「第三のソーシャルグループ」が欧米に比べとても脆弱で、存在感が薄い。そもそもアメリカなどでは福祉施策が心もとなく、公のサービスだけではとても社会的ニーズを満たすことができない。そのためNPOが細かいニーズを汲み取り(アメリカにおける推定NPO法人数は150万。日本の認証NPOは約5万程度と雲泥の差)、つながりから抜け落ちていく人たちをサポートする仕組みになっている。日本ではほとんどの福祉サービスが「公」頼みだが、政府や自治体が1人ひとりの細かいニーズにまで対応することはできないため、網の目からこぼれるすべての人たちを掬い取ることまではできない。

都市化が孤独を加速

孤独を増幅させる原因とは… PUBLICDOMAINQ
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 「サードプレイス」として人々の“広場”や“セーフティネット”となるべきコミュニティが未発達であることも、日本の孤独問題の根本的要因の1つとなっている。

 都市化も孤独を加速させるだろう。都市居住者が激増するにつれ、村社会型の「地縁・血縁」というセーフティネットは空中分解し、「無縁社会」化している。また、家父長を中心とした家制度や村社会の「縁」の弱体化を補完していたのが、企業という組織への帰属意識や連帯感だったが、それも働き方の変化によって薄れつつある。人々を結びつけていた家族や地域、企業などの磁力が弱まるにつれて、つながりを失い、放り出される人が急速に増えている。要するに“公のサービス”が手元に届くまで、自分の面倒は自分で看なければならない時代に突入しているのだ。しかし、待てど暮らせど“公のサービス”は自分を満足させてくれることはない。実態はそんなところではないか。

 過去からの連続で、現在は内側の意識だけでなく、外側のハード環境が男たちをさらに追い込むかたちになっている。建設業に従事する圧倒的多数である男性は、建物・建築群の建設に携わりながらも、自らを追い込むような都市化にも加担しているという、何とも皮肉な構図──女性が建設産業の中枢に入ってくるような未来があれば、この「都市化による無縁社会」は違うものへと変わるのだろうか。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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